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――まだ雨が降っている。
私は目を瞑ったまま、轟々と唸る雨の気配を感じ取っていた。
それとは別に、どこかで水が落ちる音が聞こえていた。雨漏りをしているようだ。この小屋は古く、室内にいても雨風に吹き飛ばされるんじゃないかという不安を感じさせる。早くここから出ないと、危ないんじゃないだろうか。
その時、ひた、と床を踏む気配を感じた。
重い瞼に力を入れ、薄く目を開ける。暗い小屋の中、私のすぐ目の前に立つ誰かの足首が見える。
細い。佐伯くんの足ではない。かなのちゃんかと思ったが、それも違う。彼女は全身を黒と黄色でコーディネートしていたが、その足は赤いタイツを履いているのだ。
他の登山客が来たのだろうか。
……雨の中、こんな、夜更けに……?
「すみません、起こしちゃいました?」
目を開けると、目の前に佐伯くんの顔があった。
驚いてパッと身を起こす。慌てて寝袋から這い出て、ようやく状況を思い出した。そうだ。昨夜は遅くまでかなのちゃんが佐伯くんのいる部屋でお喋りをしていたので、私は一足早く女子組の部屋に戻り眠ってしまったのだ。かなのちゃんがそばにいないことを見るに、そのまま向こうの部屋で眠ってしまったのだろう。
周りには、佐伯くん以外誰もいない。あの細い足首の人物も。どうやら夢だったようだ。
二月初旬の今、室内とはいえあんな薄手のタイツでは寒くて居られたものではない。
「あの……今、何時かな」
「ええと、まだ五時にもなってないと思いますけど」
スマートフォンを見ると、四時過ぎだった。まだ日の出は遠い。佐伯くんはというと、この嵐のような雨音に飲まれ目が冴えてしまったのだという。私がちゃんと眠れているだろうかと確認しにきたそうだ。
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