避難小屋の夜

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   そしてその時、気付いた。  スマートフォンが圏外になっている。来た時は電波があったはずなのに。  これで、万が一何かがあった際に救助を求めるという道は絶たれてしまった。 「雨、止まないといいなあ」  ふと、佐伯くんが窓の外を見つめながら呟いた。  私は顔を上げた。闇の奥、雨粒たちを見つめる佐伯くんの表情は真剣だった。だからこそ、その真意を測りかねる。  ここにいる三人全員が、雨が止んでほしいと願っていると思っていたからだ。 「どうして?」 「だって、雨が止んだら下山して、あとは先輩とサヨナラじゃないですか。そんなの、寂しいです」  急にそんなことを言われ、驚いた。  佐伯くんがそこまで私のことを好いていてくれるとは思っていなかったのだ。私もこの大学を卒業するにあたって寂しい気持ちはある。だけれど、旅立ちというものはそういうものだからと私でさえ口に出すことはなかったのに。  らしくないね、と茶化してみせた。しかし佐伯くんは笑い返さなかったので、つい真面目に答えてしまった。 「かなのちゃんも、他の先輩たちもいるじゃない。それに、春になったら後輩がたくさん入ってくるよ。大丈夫だって。佐伯くんはしっかり者だから、いつか部長になって、同好会が部に昇格するように盛り上げてほしいな」  すると佐伯くんは、無理ですよ、と呟いた。  その言い方が何か含みを持っているように感じて、私は佐伯くんを見つめた。  佐伯くんはどこか冷たい目線で、窓の向こうを睨んでいる。 「先輩。僕、見つけたんです。先輩はもう卒業だし、黙っておこうと思ったんですけど」  急に話題が変わる。その不穏な始まりに、私は眉根を寄せた。 「何を、見つけたの?」 「山岳部の活動ノートです」 「山岳……部?」 「はい。今は同好会ですけど、以前はきちんとした部だったんですよ。ホッケー部の壁と棚の隙間から出てきたそうです。前はそこに山岳部の部室があったんですね。部室の掃除をしてたら見つけたって、友人が持ってきてくれました」
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