避難小屋の夜

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   ぴちょん。  雨漏りの音がしている。定期的に聴こえてくるその音に煩わしさを感じたが、佐伯くんの話に集中しようと頭を振った。 「そのノートには、これまでの活動の履歴が書かれていました。何月何日に何山登山、何時何分にどこどこを出発して、何時何分に何々峠へ……。山に登る前のルートメモとしても使っていたんでしょうね。中でも、当時の部長の宮嶋ユキコさんという方が記録と感想を書くことが多かったです」  宮嶋ユキコ。  聞いたことのない名前だった。少なくとも私が在学してた頃にはもう卒業していた人なのだろう。  佐伯くんは続ける。 「宮嶋ユキコさんの話題は、どの山行の感想にも出てきました。きっと、いい人だったんだと思います。リーダー気質で、気配り上手で、聞けば何でも答えてくれて……。彼女に助けられた、というエピソードをいくつも読みました。宮嶋さんと行く山はいつも晴れだったようです。天気をよく見てたようですね。少しでも雨の気配があるようだったら日取りを調整して、みんなに連絡して。いつもザックに付けていたてるてる坊主がトレードマークだったようです」  私は思わず、床に転がっていた佐伯くんのてるてる坊主を手に取った。  つい笑ってしまう。 「私とは大違いだなあ」 「そんなことないですよ。宮嶋さんは、予測を外してしまったんですから。夏の、集大成の登山で」  佐伯くんの表情が、不意に険しくなった。 「八月の終わりの遠征登山でした。春から夏にかけて色々な山で訓練をして、夏の最後に難易度の高い山に挑戦したんです。みんな、気合いが入っていました。ずっとそこを目指してきたんですから。でも当日、悪天候に見舞われて山頂に向かうことはできませんでした」  
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