避難小屋の夜

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   その話は、聞いていて耳が痛いものがあった。  天候は、百パーセント予想することなんてできない。当然外れることもあるだろう。高地で雲に飲まれれば、数分ごとに状況が変わることもあるのだから。  自分を擁護するようで気が引けたが、言わずにはいられなかった。 「高山は特に、天気が読みにくいから……。しょうがない、のかもね」 「でも、部員の反応は違いました」 〝やっぱり日にち変えればよかったんだよ〟 〝今まで時間かけて準備してきたのに、こんな形で終わるなんて〟 〝また今度、なんてムリだよ。交通費ない。私、学費払うので精一杯だもん〟  そう、責められたという。  その気持ちは私にも分かる。自分はまだ歩けるのに、悪天候というだけで引き返さなければならない虚しさ。その、やるせない気持ちは今までに何度も味わってきた。  でも、登山は登頂することが全てではない。  その道中の景色や友人との会話を楽しむことこそが醍醐味なのだ。彼らは登頂の達成感を求めるあまり、そのほかの部分を蔑ろにしているように思えた。 「それはつらいね……」  思わず俯く。すると、思いがけない言葉が返っててきた。 「はい。それで、怒りを覚えた宮嶋さんは、帰りの道中で彼ら全員を山道から突き落としたそうです。その後彼女も飛び降り、五人全員が亡くなりました」 「……え?」  突き落とした? 全員が、死亡?  思わず耳を疑った。 「大きな事件になりました。ノートの最後のページに新聞の切り抜きが貼ってありましたから」  言葉を失った。仲間を突き落とす、なんて。  
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