避難小屋の夜

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   そんなこと、あってはならない。ただでさえ危険な山道で、一歩道を外れれば谷底の世界で。  みんな、互いに信頼し合って歩いているはずなのに。 「宮嶋さんは帰りの道で、〝雨よ降れ〟と繰り返し叫んでいたそうです。壊れたおもちゃみたいに、何度も、何度も。部員への当てつけだったんでしょうね。今までみんなのために尽力してきたのに、たった一度予測を外しただけであんなに言われて……。何かの糸が切れてしまったんでしょう。部員たちは宮嶋さんの変わり様に気味が悪くなり、彼女を置いて逃げようとしたのですが……最悪の結果になってしまいました」  そこまで言い、佐伯くんは言葉を止めた。  室内は重い雰囲気に包まれていた。午前中には楽しい登山をしていたとは思えない、仄暗い空気が辺りを包んでいる。息が詰まりそうな程、苦しい。  そしてようやく、私はこの話の始まりを思い出した。 「……それで、山岳部は」 「廃部になりました。二十年前のことです。でもきっと、この先も山岳同好会は昇格しないんじゃないですか。たとえ今後僕が部長になっても、人が増えたとしても、大学が部として認めるかどうか」  ぴちょん。  思い出したかのように、雨漏りの音が聞こえた。  気付くと、体が震えていた。二月の山は恐ろしい程に寒い。それこそ、全身を雨に打たれたかのように。力を抜けば歯がガタガタと鳴ってしまいそうだ。  しかしこの震えは、気温以外にもある要因があった。 「どうして……」  ぽつりと呟く。  数分前に、私は気付いたのだ。  ずっと手にしていた、佐伯くんが作ったてるてる坊主。その頭が、妙に重い、ということに。  
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