紅蓮の断罪

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紅蓮の断罪

「む、この菓子美味だな」 紅蓮ちゃんがケーキを頬張る。 「ムシャ紅蓮しゃまの仰る通りでふムシャ」 禄さんが口の周りをクリームまみれにしながら ケーキを食べている。 「禄さん、良ければティッシュどうぞ」 「ハッ……わたしとしたことが…… 蓮花様、ありがとうございます!」 禄さんは恥ずかしそうに箱ティッシュを受け取った。 あれから一週間が経ち、紅蓮ちゃんと私(禄さんも) は一緒に住むことになった。 二人にはだいぶ慣れたと思う。 最初は禄さんが怖かったけど今は 可愛いと思うまでになった。 私は二人を微笑ましく見つめる。 すると、スマホに電話がかかってきた。 遥ちゃん と表示されている。 「もしもし、遥ちゃん?」 「助けて、蓮花ちゃん!!」 鬼気迫るような声にただ事じゃないと感じた。 「ど、どうしたの?! 遥ちゃん!!」 私が上げた声に二人はこちらを向いた。 ガチャンとスマホを落とした音。 「お……お姉ちゃん……やめて……」 苦しそうな遥ちゃんの声に私は部屋を飛び出す。 「どこに行く!?」 蓮花ちゃんの声が聞こえたけど、私は走り続けた。           ◯◯◯ 私はチャイムも押さずに遥ちゃんの家に上がり込む。 「遥ちゃん! 遥ちゃん!」 どうか無事でいて。 ちょっと、いやだいぶ怖いけど遥ちゃんを助けるためには行くしかない。 わたしは部屋のドアを開けた。 すると、驚きの光景が目に入った。 「!! 蓮……花ちゃん……」 遥ちゃんはお姉さんに首を絞められていたのだ。 「な、何をしてるんですかっ!」 私は遥ちゃんのお姉さん、菜花(なのは)さんから遥ちゃんを引き剥がそうとするけど、 ピクリとも動かない。 「手をっ! 離してっ!」 そのとき、菜花さんが弾かれたように後ろの壁に 勢いよくぶつかり背中を打ち付けた。 菜花さんはぐったりしている。 一体、何が起きたの?? 「はぁっ、はぁっ、はぁっ」 苦しそうにする遥ちゃんの背中をさする。 「遥ちゃん、大丈夫?!」 「うん、何とか……お姉ちゃん、 どうしちゃったの?」 遥ちゃんは涙目で菜花さんを見た。 菜花さんはうつろな目で私に手を伸ばす。 「コロス、コロス、コロス」 怖い!! 逃げようとするけど足が動かない。 菜花さんが私の首に手をかけようとしたそのとき、 「閻魔大王が娘、紅蓮が命令する。 その者を捕らえよ」 凛とした声が聞こえた。 紅蓮ちゃん! それに禄さんもいる! 黒い手が地面から勢いよく伸びてきて菜花さん を捕らえた。 「ひぃぃっ!!」 な、何これ。 怖いし気持ち悪いんだけど。 菜花ちゃんはその光景を見てポカンとしている。 「何が起こって……」 「お前、名は?」 紅蓮ちゃんが聞くと菜花さんはうつろな目のまま 「俺の名前……俺の名前は……リョウ」 と呟いた。 男子のような一人称に私は違和感を覚えた。 菜花さんは自分のことを「あたし」と呼ぶのに。 「お姉ちゃん、何言ってるの?」 戸惑ったような遥ちゃん。 「どうやら、悪霊に取り憑かれたようだな」 菜花さんが悪霊に取り憑かれてる?! 「悪霊!?」 遥ちゃんは信じられないという顔になる。 紅蓮ちゃんはそこで息を吸った。 「閻魔大王が娘、紅蓮が命じる。悪霊の罪を暴け」 現れたのは鏡。 鏡の額には、燃えさかる炎の絵が刻まれていた。 そこには、四十代ほどの男性が疲れきった顔で 歩いているのが映っていた。 『みんな殺してやる』 男性は狂気的な笑みを浮かべ 包丁を取り出し、人々を切りつけていた。 私は、見ていられなくなり視線を下に向ける。 その途端、鏡が消えた。 「閻魔大王が娘、紅蓮が命じる。この者を断罪せよ」 えっ、まさかさっきの人が菜花さんに 取り憑いてる悪霊のリョウさんなの? 紅蓮ちゃんが言うと、菜花さんの口から 黒い魂のようなものが出てきた。 菜花さんは意識を失い倒れそうになるが、 遥ちゃんが菜花さんの肩を支え、床に寝かせた。 そして黒い魂は人の形になる。 えぇっ! それは紛れもなくリョウさんだった。 〈俺……何して……〉 「自我をなくしていたのか。お前は大量殺人を犯し、悪霊となってこの者に取り憑いたのだ」 〈あぁ、そうだ。忘れてた。どうしてあんなことをしてしまったんだ〉 リョウさんが悲しそうに涙を流す。 殺人をしたのはいけないことだけど、胸が痛む。 「嘘をつくな、 お前は罪を悔いていない。そうだろう?」 え?そうなの?! 〈……いや、俺は罪を悔いている〉 紅蓮ちゃんはため息をついた。 「嘘をつくのなら仕方ない」 リョウさんは真っ赤な炎に包まれる。 「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」 「ちょっ、紅蓮ちゃん!!何してっ」 思わず声を上げる。 「案ずるな、地獄へ送るだけだ」 紅蓮ちゃんはいつものように無表情で言う。 「地獄へ堕ちろ」 紅蓮ちゃんがそう言うと彼は跡形もなく 消えてしまった。
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