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「ねぇ、ちょっと道を聞きたいんだけど」 「ひぃぃっ!」 びっくりしてわたしは飛び上がった。 「あの、そんなに驚かないでください」 黒髪の真面目そうな男の子が慌てた様子を見せる。 「ご、ごめんなさいっ、わたし、急いでるので!!」 わたしは目線を合わせず、走り出す。 「えっちょっと待って……」 しばらく走って振り返ると 男の子は諦めたのか背を向けて足元から消えた。 そう、消えた。 わたしは三雲蓮花(れんげ)。 霊感体質の小学六年生。 さっきの人は幽霊。 つい最近、幽霊が視えるようになったの。 なぜかはわからない。 「もうやだぁぁぁっ!!怖いよぉぉっ!!」 わたしは走りながら叫ぶ。 周りの人たちが何事かと振り向いた。 は、恥ずかしい。 わたしは口を両手で押さえた。 学校に着きホッとする。 ここまで来れば大丈夫だろう。 わたしは教室の扉を開ける。 「蓮花ちゃん、おはよう」 ふんわりしたショートカットに猫のように大きな瞳の美少女がのんびりした口調で話しかけてきた。 「おはよう、遥ちゃん」 ランドセルを机に置いて席に座る。 遥ちゃんは、わたしが小学一年生の頃からの親友だ。 おっとりしていて、優しいの。 「今日はいつもより早いね」 「あ、ま、まぁね」 幽霊が道を聞いてきたなんて口が裂けても言えない。 「今朝の人、マジやばくなかったー?」 大きな声で話しながら入ってきた女子。 「大声で叫びながら走っていってたよね、ウケる」 ……多分、それわたしだ。 恥ずかしい。 「あ、もうすぐ朝読始まるね、本持ってきた?」 朝読は朝の読書の略。 ウチの学校では十分間朝読をするのが毎日の ルーティーンだ。 「もちろん持ってきたよ」 わたしはニッコリ笑い本を取り出した。 キミノノベル文庫の『魔界少女の冒険』。 魔界の女の子が人間界に冒険に出て、 たくさんの人と出会う物語だ。 「面白いよね! わたしは『雨水』借りたよ」 『雨水』は昭和のベストセラー作家が書いた小説だ。 「こんな難しそうな本読むなんてすごいね」 わたしはせいぜい児童文庫しか読めないのに。 感心すると、遥ちゃんは照れたように笑った。 キーンコーンカーンコーン。 チャイムが鳴った。 「みなさん、席に着いて朝読を始めてください」 担任の横山先生が笑顔で声を上げる。 遥ちゃんは席に戻り、朝読を始めた。 そして、わたしも物語の中に入り込んで いったのだった。           ◯◯◯ 「蓮花ちゃん、バイバイ」 放課後、わたしたちは下校していた。 「バイバイ」 わたしは遥ちゃんに手を振る。 一人で帰路を辿っていると声が聞こえてきた。 「本当にこの家であってるのか?」 可愛らしい声だ。 「ええ、間違いありません。ここは姉君の家です」 小さい子供のような声も聞こえる。 わたしは前を見て、驚いた。 黒髪を腰まで伸ばしていて、真紅の瞳。 白い肌の美少女。 なぜか、着物をワンピース風に リメイクしたような服を着ていた。 背丈はわたしより低い。 年下だろうか。 こんな綺麗な子見たことないよ。 そう思っていると黒髪の少女と目が合った。 思わず目を逸らすと 「お前、名前はなんだ?」 と黒髪の少女が口を開いた。 「姫様っ、失礼ですよ。 ちゃんと敬語を使ってくださいっ!」 「あぁ、忘れてた」 黒髪美少女はめんどくさそうに頭を掻く。 えっ。 今聞こえてきた声って。 地面を見ると 猫ぐらいの大きさの緑の肌に一つ目。 頭にはツノが生えているなにかがいた。 「きゃぁぁぁっ!! ゆ、幽霊!!」 思わず叫ぶと緑の幽霊は慌てたように言った。 「あぁ、申し訳ありません。 怖がらせてしまいましたね。わたしは幽霊ではなく鬼なので安心してください」 いや、鬼の方が怖いんだけど。 逃げよう。 そう思ったとき。 「ソイツはわたしの世話係だ。 怖くなどない。」 黒髪美少女はそこで言葉を切り わたしを見つめた。 「名前を教えろ」 黒髪美少女の圧にわたしは 「三雲蓮花です……」と名前を言ってしまった。 知らない人に名前を教えちゃいけないのに。 「蓮花」 黒髪美少女と鬼は顔を見合わせ頷く。 そしてわたしの方を向いた。 「わたしの名は紅蓮(くれん)、お前の妹だ」 えっ!? 「わ、わたしに妹はいませんが」 紅蓮ちゃんはため息をつく。 「お前は地獄の王女だ。人間の母と閻魔大王のもとに 生まれた。だがある日、姉である蓮花は 行方不明になった。 わたしが調べたところ、お前は三雲蓮花という名前で 生きていることを知った。 お父様がついでに研修にも行ってこいと言うから ここに来たのだ。」 え? 地獄の王女?! わたしが?? 「わたしの名前は(ろく)と言います。 あなたがた姉妹のお世話係をしていました。 あぁ、蓮花様。生きていてくださって 本当にありがとうございます」 鬼、いや禄さんは涙目になった。 わたしが地獄の王女って本当のことなの? 「でも、わたしお父さんとお母さんはいますけど」 恐る恐る言う。 「それは、お前の使用人だ」 「えっ……」 お父さんとお母さんは本当の家族じゃなかったの? わたしは、パニックになる。 わたしが地獄の王女で、紅蓮ちゃんが妹なんて 聞いてないよ!! わたしは青い空を仰いだのだった。
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