第一話 孤高の王

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 が、数歩進んで荷車が止まった。男達の視線が正面に向けられている。俺は正面の格子に近付いて、幕の間から覗き見た。  丘の上から見えたのは、聳え立つ石の壁だった。羊族が積み上げたのだろうか。どれくらいの高さがあるのだろう。森の木よりも高い壁の中央に、扉らしきものが付いているのが見える。小指の先ほどに小さいが、獣人たちが扉に入っていくのを見ると、あの壁の向こうに羊族の国があるのだ。 「お前たちは門の前まででいい。あとは僕がやっておく」 「いいのか? 俺達だけカーニバルに先に参加して」  灰色の毛の男が「構わない」と言うと、斑の毛の男が嬉しそうに尻尾を振る。 「よし! あと一息頑張ろうぜ!」  やる気を出した斑の毛の男が荷車をぐんぐんと引っ張る。そのせいで急に荷車が傾いて、俺は前方に転がって格子に激突した。  物音に驚いて振り返った栗毛の男と目が合う。くんくんと鼻をひくつかせ、不思議そうに首を傾げた。 「しかしなんだって羊族は、こんなβの子供なんか欲しがったんだろう? 確かに見たことない種だし、変わった匂いではあるけど」 「さあな。犬コロを飼うのが趣味なんだろ。稀に羊族と犬族との間に犬が生まれることがあるらしいが、その子供は塀の外を守る兵士にされるらしいしな」  ぴくりと灰色の毛の男の耳が反応するのを俺は見逃さなかった。この男は、この二匹とは違う。ただの雇われた運び屋ではない。 「そんなことより急がねえと、日が沈む前に辿り着けねえぞ!」  激しく荷車を揺らしながら坂を駆け下りていく。俺は丘の麓に着くまで格子に掴まって耐えた。
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