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周りの犬族は皆陛下を神経質で高慢な王と見做していて、僕のことを可笑しな奴だと揶揄したけれど。僕は陛下の繊細で心優しい側面を知っているから、一面だけを見て勝手なことを言う同胞とは次第に距離を置くようになっていった。
あの狭い箱庭は、先に生まれたというだけで偉ぶる粗暴な輩も、汚い言葉で羊族を辱める者もいない、静かで平穏な、僕が生きている意味を、「ここに居ていい」と存在意義を噛み締めることができる、夢のような場所だった。
──王にとっては、鬱屈した心情を溜め込んでいくだけの場所でしかなかっただろうが。僕は、陛下の幸福を望んでいたが、同時に、この日々が続くことも望んでいた。
だからあの日、陛下が外の世界に出てロポと歩く姿を見て、幸福感と喪失感の両方を抱いていた。
僕は、あのふたりの側には、もう居られないから。
羊族の国では、αは壁の外にしか住めない。例外として番を得た者は住むことを認められるが、それでもあまり良い顔をされないと聞く。
「運命の番」でもなければ、国民の八割がΩである国では、どんな強靭な精神をもってしても、強烈な誘引の前には屈してしまうからだ。
他国の者など、羊の国のことを知らない者は思い違いをしているが、同意のない性行為は、強姦罪で逮捕され裁かれる。
カーニバルの期間は、娼館が客の財布の中身を根こそぎ奪うためや番の居ないΩが搾乳するための出産を計画して合わせるため、淫らな噂が流れているようだが、商売が絡まない場合には、パートナーとの性行為しか行われない。
──それらについては、全て知識があるというだけで、壁の向こうの世界を目で見たことはないのだけれど。
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