番外編① 幸運という名の犬

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 用水路の水が絶え間なく流れている。近くの川から引いたもので、羊の国の全ての生活用水を担っているから、重要な拠点であり、唯一壁に囲まれていない部分でもあるから、外部からの侵入を防ぐために警備が必要なのだ。  日の傾き方を見ると、そろそろ交代の時間だ。  と、用水路の水の流れが急に速くなったように感じて、覗き見た瞬間だった。黒い影が現れたかと思うと、突然浮き上がってきたのだ。 「スウード!」  木の棒を構えていた僕の目に飛び込んできたのは、見たことのある顔。丸い耳に丸く大きな瞳、茶色の髪──。 「ロポ……!」  満面の笑みで用水路から顔を出している。 「何故ここに? というか、何故用水路から……!」  そもそも王妃になった彼が城の外に一人で出てきていること自体が、大問題なのだが。 「城を警備してる犬族の獣人から聞いたんだ! 今日は用水路担当だって」  そう言いながら水から上がってきた彼が、何も身につけていないのを目の当たりにして、硬直した後顔が一気に熱くなる。 「何で服を着てないんだッ……!」  慌てて僕の身に付けていたローブを脱いで、ぶるぶると頭を振って水を飛ばすロポに羽織らせた。 「え? 水の中に入るのに服を着てたら危ないじゃん。どこかに服が引っ掛かったりしたら、身動きが取れなくて溺れることがあるんだぞ?」 「そうかもしれないが、頼むから軽率に裸にならないでくれっ……!」  「何で?」と首を傾げるロポは、ひと月前から少しも変わっていない相変わらずな様子で、呆れながらも安堵する。 「……それはいいとして、どうしてここに?」 「ずっと会いたかったから、スウードに」
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