番外編① 幸運という名の犬

5/16

1250人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
 ロポは嬉しそうに僕を見上げた。予想外の言葉に驚く。 「城から抜け出す方法が無くってさ。そしたら、用水路は上流と下流しか警備されてなかったから、スウードが下流の警備の時を狙えば会えるんじゃないかなあって。会えてよかった!」 「……僕に会うために泳いでここまで来たのか?」 「うん! ちょっと流れが速かったけど、おかげで思ったより楽だった!」  城は用水路のほぼ始点に当たる上流にある。あの位置からここまで、距離にして最低でも二キロはあるはずだ。その距離を、ずっと泳いで──。 「俺とアルが城で生活することになってから、会えなくなっちゃって……スウードがどうしてるか心配だったんだ。アルも心配してる」 「陛下が……?」 「うん、口には出さないけど、城警備の担当に毎日スウードがどこで何の仕事してるか聞いてるんだよ」  ロポがわざわざ苦労して会いに来てくれたこと、陛下が僕のことを気にして下さっていること。ただの一従者でしかなかった僕のために──それは、とても嬉しい報告だった。 「αは番が居ないと国に入れないんだってね。スウードも誰かと番になればいいのに! あっ、俺のお世話をしてくれてる羊族の女の子が居るんだけど、とっても可愛いよ! 優しいし、おっとりしてて。白い毛がふわふわなんだ!」 「こら、勝手なことを言うな。相手に失礼だろう」 「うー……ごめん! けど、スウードと一緒に居たくて」  そう想ってくれるのは嬉しいが、番となる相手があってのことだ。それに、城で陛下の側で働くとなれば、運命の番でも無ければ何か間違いが起こらないとも限らない。そうなると、奇跡でも起きなければ難しい。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1250人が本棚に入れています
本棚に追加