番外編① 幸運という名の犬

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 Ωの抑制剤は図鑑に載っていた実などを加工した植物由来の安全性の高いものが一般的に流通しているが、αの抑制剤は副作用が強い非合法なものしかなく、効果も芳しくないと聞く。  もし安全性の高いΩの抑制剤に近い形で、αの抑制剤が作られたら──僕は、生を受けたこの塀の向こうに、行けるかも知れない。 「今アルが犬族の王様と一緒に研究をしないかって持ち掛けてるんだ。犬族にはΩもαも少なくて研究しにくいから、羊の国でも研究すると良いかもって」  今羊の国の塀の中に居られるαは、番の居る者と国外からの訪問者くらいだ。国内需要はさして高くはないだろう。  犬族も羊族も国内に居るαは少ないが、しかし他国──特に狼族は半数近くがαだと聞くから、国外の需要は高い。交易でかなりの収益が見込めるはずだ。  そして羊の国の王は抑制剤があれば、これから先、塔で生活を強いられることは無くなるだろう。 「アルはスウードが良いなら実を食べてみて大丈夫かどうか、試験を手伝って欲しいみたい。そのうち連絡が来るかも」 「それは是非協力したいとお伝えしてくれ。僕も……もし可能なら、またお仕えしたいと思っているから」  そんな望みを言って良かったのかと思ったが、ロポは「うん、そうなればいいな!」と笑って答えた。  門の前に辿り着くと、門兵がロポを探していたらしく慌てて城の方へ伝令を出していた。 「今度は城の中で会えるといいね!」 「ああ、そうだな」  迎えの籠が来て、門の前で別れる。手を振るロポを見えなくなるまで見送って、また歩き出す。淋しさと仄かな希望を抱いて。
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