番外編① 幸運という名の犬

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 母が働いていた娼館の正確な場所は分からないが、国外の者が訪れることができる場所となると奥まっていない大きな建物である可能性が高い。娼館生まれの犬族の老人が、その辺りの館で生まれたと言っていたのもある。  入り口にある建物を眺めながら、もしかしたらこの辺りの娼館のいずれかだったかもしれないと思いを巡らせた。  赤や黄色の淡い色合いのランプに照らされ、街並みは美しく華やかに見える。ただ、娼館の前で呼び込みをしている者達は、皆肌を露出していて目のやり場に困るのだが。 「お兄さん、お相手はお決まり?」 「い、いや! 僕は……!」  唐突に背後から声を掛けられて、反射的に後退りする。 「姉さん、その獣人お城のひとじゃない? そのローブ、お役人のだわ」 「ええ? あたしらちゃんと営業許可もらってるわよ?」 「そうよ! 不法な呼び込みもしてないのに!」  と、知らぬ間に次々と現れた羊族のΩの女性達に囲まれてしまった。皆胸を強調した布地の少ない服を着ているため、視線を向けることすらできず、目を泳がせ挙動不審な反応をしてしまう。 「ちょ、ちょっと用があるので……!」  何とか隙をみて包囲網を掻い潜り走った。しかしそこで逃げる方向を間違えたことに気付く。更に奥に入ってしまったのだ。  戻ることは難しいが、確か城を出る時に確認した地図では、この奥から大きな通りに出られた気がする。  裏通りは表の通りよりも静かで、明るいランプも館の入り口にしか灯っていない。先程のような呼び込みの者達は、皆表通りに出ているのだろう。 「あんた!」
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