番外編① 幸運という名の犬

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 唐突に暗がりから飛び出してきた何者かが、僕に体当たりしてきて、衝撃でふらつく。驚いてその者を見ると、僕より背が少し低いくらいの背丈の男だった。 「あんた、おれの運命だろ!」  外に跳ねるような癖のある長い黒髪に褐色の肌の羊族の男──が僕に抱きついている。横に突き出した耳は垂れ、身体付きはΩにしては割合がっしりとしていた。そして、赤銅色の瞳を輝かせ、僕を真っ直ぐに見詰めている。  その目を見た時、何か身体を走り抜けるような感覚があった。 「おれ、ルシュディー! あんたは?」 「えっいやっ……」  胸の部分と腰布で隠れた下半身以外は肌を晒していて、身体を密着させられている状況に顔から火が出そうなくらいに熱くなって、身動きも取れず硬直する。  そして彼から匂い立つ、芳しい香りに、思わず心臓が強く脈打った。 「ちょっ、お前! ルシっ! 誰でも彼でも声掛けんなッ!」  僕より頭ひとつ小さく、白い巻毛の髪に角を生やした一般的な羊族の風貌の青年が現れて、僕に抱きついている青年を引き剥がした。 「そのひと、役人だぞ! 服見りゃ分かるだろ!」 「知るか離せッ! こいつはホントにおれの運命なんだよっ!」  ルシュディーと名乗った黒髪褐色の青年は、必死に白髪の小柄な青年から逃れようと手足をバタつかせている。  しかし、警備の仕事を任されていた時に身につけていたローブは役人が身につけるものと同じだったとは知らなかった。知っていたら、不用意に羽織ってきたりはしなかった。 「マタル! 早くルシを連れてってくれっ!」 5734a43f-b102-44b1-af4e-c19a08eef6f7 illustration by ば/けさん
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