第一話 孤高の王

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第一話 孤高の王

 ──この森から出てはダメよ。誰にも秘密を知られてはダメよ。  母がそう言い残して死んだのは、十年も前のこと。俺はその言いつけを守って生きてきた。群れのみんなが都会に出て行っても、森の中の川辺から離れないで、一匹で孤独に耐えながら、じっと──待った。  ──ただ、貴方のことを探しにくる者がいれば、ついて行くかその者を見極めて決めなさい。 「あと少しだね。あの丘を越えたら見えてくるよ」 「ああ、数日楽しめる金は用意してきたぜ」  幌の掛けられた格子付きの荷車に載せられて、どれくらい経ったのだろう。何度か食事が出されて、食べて寝て起きてを繰り返した。がたがたと揺れる振動と、たまに荷車を引く男達の会話が聞こえるだけ。幌の隙間から見える景色には、馴染みのある木も川もない。ただ、茫漠と草原が広がっている。  母の遺言の通り、迎えに来るものがあった。同じ犬族の国の者達だったが、しかしその者達は俺を縛り上げて無理矢理この荷車に放り込んだ。そして今どこかに連れて行こうとしている。その目的地も理由も、何も分からないまま。 「そういえば本当かな? 羊族のやつらが俺達犬族を見限って、狼族と組むとか」 「狼族はαばかりだからな。Ωの多い羊族からしたら番になれる方が経済的に良いのかもしれないが」 「ないない! 大昔食獣が行われてた頃にどれだけ羊族が奴等の餌食になったか……未だにその遺恨で国交も断絶してるんだぜ?」  男達の話は、俺の知らない話ばかりだった。犬族以外にも多くの獣人がいるのは知っているけど、見たことは一度もないからだ。  食獣、αやΩというのも初めて聞いた。何を意味する言葉なのだろう。しかし男達に訊ねることはできない。俺をこんな目に遭わせた奴等と口を利くのは嫌だから。
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