「心拍が聞こえる」

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「心拍が聞こえる」

 これは、1980年の話である。 僕は今、中央高速を走っている。助手席には彼女が乗っている。 「FM聞こうかな、でも、電波入るかなあ」と言いながら、カーステのボタンに手を伸ばした。 「あ、これ好きな曲なのよ、ラッキー」と嬉しそうな顔をし、曲に合わせて、口遊んでいる。  しばらくして、彼女は 「今日、熱出した子がいて大変だったのよ」 「そうなんだ」 「それがね、手足口病みたいなの」 「何それ」 「知らないの?、知らないか、子供が多くかかるの、でも、大人でもかかる人いるよ」 「そうなんだ、でも、変わった名前だね」 「赤い斑点が手と足と口に出るの、原因は、砂場遊びで感染したりとか、人からもらったりとかね」 「感染で園内に広まったら、大変だね」 「そうなの。だから、子供の確認だったり、保護者に連絡したり、砂場を使用禁止にしたりバタバタよ」 「それは、それは、大変だったね」 「待ちくたびれて、帰ったかと思ったわ」  彼女は、幼稚園の先生をやっている。まだ二年目の、新米だ。 「そう言う理由なら、遅れてもしかたないよ。それに、当日のキャンセルは全額とられちゃうし」
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