彼はモテる。らしい。

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 受付を済ませ、会場に入る。  披露宴スタイルというよりは、晩餐会スタイルというのだろうか、会場には丸机ではなく長机が並んでいて、そこに着席していく形になっていた。  受付で貰った席次表によれば、二人は離れて座ることになるようだった。仕方ない。ここまで知り合いと一緒に居られただけでも、良しとしよう。………と、小さく上谷はうなずいた。  会場は費用節約を図ったのか、少々手狭だった。こんなに狭いのなら立食スタイルにしてくれたほうが良かったのに、と上谷は内心で毒づきながら、案内された席に向かう。当然、両隣は知らない会社の知らない男性、正面どころか、斜め向かいも知らない男性。最早上谷は内心の毒づきを止められそうにない。  彼女は、美味しい食事だけを楽しむことにしようと小さくうなずいた。  なんとなく、の流れで上谷は両隣の男性たちと着席のまま、自己紹介をする。さすがに名刺交換までする人間は、この会場ではいないようだった。そのまま、ありふれた世間話をするけれど、彼女にとってはこれも非常につまらないものだった。愛想笑いが限界だ。知ってるってそんな事、と言いたくなるような話題をそうなんですね、と営業的な笑顔で受け流していく。 「失礼します」  やがて、ホテルマンらしき男性がやってきて、上谷の左隣の男性に声をかけた。その後ろには浅岸が立っていて、上谷は一体何事だろうと首を傾げた。  やがて男性は嬉しそうに席を立ち、そこには浅岸が座った。 「交換して貰ったんだ。利害が一致して良かったよ。ほら、俺の席の隣の会社の人、ここの会社の席の人と接触持ちたかったらしくてさ」 「いいの?そんな事して」 「いいんだよ」  そう言って、くしゃっと笑った浅岸の笑顔に、ああこれはモテる男の笑いかただな、と上谷は思う。  彼は、誰に対しても感じが良い。親切で、優しい。だから女の子はみんな、こんな笑顔を向けられて、彼に期待をしてしまうのだろう。  商品の発表がされ、食事会が始まった。会場のざわめきに負けないようにか、彼は上谷の耳に顔を寄せて話しかけていた。  距離感を考えてほしい。わたしの椅子に置いたその手は何なんだ、と上谷は思いつつも、太ももに触れないギリギリの位置に置かれた浅岸の手を払いのけることはできなかった。鼻先をくすぐるようなコロンの香りに、この動悸は食事に添えられたワインのせい、勘違いしてはいけないと、鉄壁の笑顔で彼女は自分自身を強く戒めた。  食事会が終わり、会場を出る。今ごろはプレスリリースも済んでいることだろう。隣の結婚式場はとっくに人がはけて、遠くの壁際には記念撮影をしているらしい、パーティードレスやスーツ姿の人々がちらほらといた。  クロークで荷物を受けとると、浅岸は良いことを思いついたとでもいうように、パッと表情を輝かせた。 「ねぇ、上谷さん。すぐ近くに水族館があるんだって。どうせ直帰なんだし、新幹線まで時間もある。せっかくだから寄っていかない?」 「水族館」 「そう、お魚さん。それでさ、東京に着いたら晩御飯を食べて帰ろうよ。大丈夫でしょ?みんなにお土産も買っていきたいし」
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