彼はモテる。らしい。

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 さすが隣席、できる男浅岸は上谷の趣味をとっくに把握していたらしい。  目を輝かせた上谷の手を、浅岸はとても嬉しそうに握って、歩き出した。  これは、デートじゃない。デートじゃないし、彼はきっといつも誰にでもこうだから、女はみんな勘違いするんだ、自分も勘違いしては恥ずかしい思いをするだけだ。………そうやって上谷は改めて、心の兜の緒を絞め直す。  仕事ができて、穏やかで、人当たりが良ければもう、それだけでモテるだろう。それでいて見た目が普通以上、近くに寄ればほんのりコロンか何かの香りがして、清潔感もある。 「楽しかった………!」  上谷は、水族館が大好きだ。特に魚に詳しい訳ではないけれど、とにかく魚が泳ぐ姿はいい。一緒にいるのが会社の同僚だということを忘れ、真剣に水槽に見入ってしまったし、お土産物コーナーではあれこれと買い漁ってしまっている。こんなのに付き合わせて申し訳ない、と我に返った上谷が少し凹んでいたところ、浅岸もそこそこの買い物をしていた。いったい自分たちは何をやってるんだ、と売店で二人、笑いあってしまった。  水族館に併設されたレストランはとっくに閉まっていて、時間に余りもないということで、急いで二人は駅に向かった。 「浅岸さんもお魚好きですか?」 「今まではそんなでもなかったかな?でも、今日、水族館が好きになった。一人で行くのは寂しいし、できたらまた、上谷さんに付き合って貰って行きたいな」  天然タラシはしれっとそんな事を言う。 「いいですよ、たまになら」  行きと違い、帰りは話が弾んだ。会話の内容は先ほどのパーティーについてが二割、会社のことが三割、水族館についてが四割に、プライベートについてが一割。 「え、上谷さん、彼氏とかできたことないの?好きな人がいたことは?」  一本くらいはいいよね?と二人でアルコールの缶を手にすれば、それは心も少しは緩んだりもするだろう。まして、食事会でもアルコールを嗜んでおり、更には先ほど買ったばかりの水族館グッズで上谷の幸せゲージは満タンである。 「んー、誰かをちょっといいなって思うことが無かった訳じゃないですけどね、でも、よくわかんなくて」  えへへ、と緩んだ笑顔を上谷は浅岸に向ける。  本当に良くわからないのだ。上谷だって、誰かを想って胸が苦しくなったことがないわけではない。けれど、付き合うとか、付き合わないとか、一体何をどうしたらそうなれるのか、付き合い始めたら一体何をするものなのか、その辺りが上谷にはよくわからなかった。  それに、自分のような、特に美人でもかわいくもない、平々凡々な容姿の女に好かれて、男性はうれしいものだろうか?………そう思うと、上谷は尻込みしてしまう。 「浅岸さんこそ、彼女が途切れたこと、無いんじゃないですか?この前も告白されたばっかりって噂、聞きましたよ」
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