森の奥のそのまた奥で

不意打ち

次の日から　雨が続いた
雨の夜は　ウザいハチや蛾が少ない
ニンゲンの出現率も　低い
そうした意味では　
交尾には　最適のシチュエーション
とも考えられる

そう思って　
目を光らせていた　カブの前に
前胸(ぜんきょう)背板(はいばん)にツヤのある♀カブト美人が
颯爽(さっそう)と　天空から飛んで来た

カノジョは　さっそく樹液を吸い始めた

今だ！
カブは心の中で叫んだ

その時だ

なんと幹の背後で待ち構えていたらしき
♂カブトＸ　が　凄まじい勢いで
♀カブト美人に　大接近！！！

不意を突かれた　カブは　カーーーッと
頭に血が上った

カブは　猛突進して　頭角(とうかく)で
♂カブトＸの　体を　持ち上げようとした
その瞬間　
カブは　角の先端にある触覚毛で察知した
♂カブトＸは　カブより体が大きいことを

どうする？！　　一瞬の迷いを　
♂カブトＸは　見逃さなかった

カブは　♂カブトＸの頭角に掬(すく)われ
体を持ち上げられた
足で踏ん張り過ぎると前脚(ぜんきゃく)中脚(ちゅうきゃく)の
脛節(けいせつ)から下を失う可能性がある

カブは　すかさず羽を広げて
暗闇の　雨の中へと　翔(と)び出した