あるハワイの芸術家

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しかし立派なことは言えなかった。取材をさせてもらっていると実際ひどくは書けない。書けば恨まれるし「辛口」という評判になれば取材はしにくくなる。自分の舌に自信があればスタンスを貫いてもいいがジェシーは自信がなかった。熱もない。いま担当しているグルメ関連、観光関連は希望したわけではなく、担当を任されて4ヶ月でまだ詳しくもない。地元紙に入社して3年目だが「経験を積む」という名目であちこち使い回されていた。こんな仕事をしたくて新聞社に入ったんじゃないのに、と思う。いつまでこんな毎日が続くんだろう。 電話が着信したのは取材を終えて駐車場に来た時だった。スマートフォンが振動しバッグから出すと画面に「クリス叔父さん」の文字。ジェシーは懐かしく「はい、クリス叔父さん?」と出ると、 「ごめんなさい、クリスじゃないの。私なの」と返ってきたのは女の声で、 「あぁ――叔母さん」 ジェシーは静かに息をした。相手はクリスの妻のスーザンで、 「ごめんねいつまでも自分の携帯持たないで。いま話せる? 仕事中?」と続けた。 「ううん、平気」 第一声を明るくしてしまったのでジェシーはトーンを落とせず、 「変わりない? お仕事順調?」と聞かれても、 「まぁ、なんとか」と言うしかなかった。「そちらは?」 「私は相変わらずだけど、クリスがね」とスーザンの口調は変わり、 「なに?」 「事故に遭って」 「事故?」 思えば夕方5時前の電話は緊急の用に決まっている、と聞き返しながら思った。    *** 小説【 あるハワイの芸術家 】を収録した短編集は6月20日に発売しました。HPでは6月末まで全文公開中。作者の自己紹介、または「あらすじ」の下部からお進みいただけます。ぜひ。
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