2人が本棚に入れています
本棚に追加
♯2 Shall we dance?
屋上に出ると暖かい日差しが差し込んでくる…
鷹左右春輝に連れられ俺は嫌々屋上の扉を閉める。
身体を貸すとは一体どういう事なんだろうか。
じっと様子を伺っていると、
それに気づいたのか目があった途端春輝は笑顔になった。
「理人でいいよね?」
呼び方の事だろう、
首を縦に振るとそのまま話を続けた。
「この間の奴ら覚えてる?」
「あぁ…まぁ…」
「俺の所属してたダンスグループが潰されかけたんだけどさ…やり返したいのね、だから俺と組んでくれない?」
それを聞いて全てを理解した。
成る程、確かに身体で返すって意味にもなるし、
納得は出来るが…
飴のお返しにしてはリスクが高い。
なんせ相手は人数で推してくるだろうから…
といっても、負ける気はしないが…
「勝ったらダンスシューズ買ってあげるよ」
急に意外な言葉が出て驚いた。
「シューズですか?」
「だってボロボロじゃん…せっかくダンスかっこいいのに勿体ねぇよ…つか敬語じゃなくていいよ?」
…よく見てるな、…と思った。
確かに最近は彼女に付き合ってばっかでそう言う部分には金をかけられてなかった。
まぁ援交で結構稼いでるが…
一悶着あって少し今は離れている。
「まぁ、慣れたらで…」
敬語については、ちょっと今は抜けそうになかった。
警戒していると言うか、
確かにダンスは楽しかったのだが、
あまりにも不安がある。
その不安というのも、
俺にはバレたくないことがいくつかある。
何となくシューズに関して察するところを見ると、
見た目と反して洞察力があったり厄介なイメージだった。
「今日すぐ行きたいんだよね、今から時間が欲しい」
かなり突発的な発言で、
思わず「今日?!」と柄にもなく声が出た。
別に行けなくないけど今日って…
「シューズじゃなくても、なんか奢るからおねが〜い」
そんなに求められるのも珍しいというか、
俺の何をそこまで気に入ったのか…
もしかして、ゲイなんだろうかなんて思ったら、
フッと笑ってしまっていた。
「なに?なんかいいことあったの?」
と言われてびっくりする。
俺はマスクをしてるし表情はわからない筈…
「どーする?」
「………わかった、行きますよ」
多分、行くと言わないとずっと付き纏わられる気がしたから仕方なく了解した。
後は不思議な好奇心というのか、
最近ストレスを感じていたからたまには発散するのにも悪くないんじゃないか…
なんて…
さっきまでの不安とは裏腹に危険に身を投じてみたくなった。
春という季節がそうさせるのか、…
それとも彼だからなんだろうか。
「服買いに行こう〜」
「わかったから、引っ張らないでください」
腕をぐいぐい引っ張られ、
振り解こうとしたが強すぎて抵抗できずにいた。
…やっぱり敵にだけは回したくないな…
電車を乗り継いで華やかな街に出る。
俺がよく知る場所に少しばかりヒヤッとした。
最近ちょっと避けてきていた場所だ。
春輝が店に入り派手な服を手に取る。
キラキラとしていて最早それは衣装だった。
「…もしかして、ステージに上がるつもりじゃ…」
「あがるでしょ」
当たり前のように言われ焦る。
まてまて、打ち合わせも無しにぶっつけ本番でいこうとしてんのか。
「赤にしよう、赤系」
お構い無しに俺に服を投げつけてくる、
すると急にスッと手が伸びてきてマスクを取られた。
「なっ…」
「へぇ、結構可愛い顔してんね」
「可…可愛い??!」
カッコいいとは、よく言われるが…
可愛いってなんだよ…
いちいち突っ込みたくなるのを耐えていたが、
結局されるがまま服を買い、着替えをする。
不意に鏡に映る自分と春輝を見ると形は違えど赤と黒の光沢ある衣装はペアルックのようにも見えて恥ずかしくなった。
こういうのは今までやったことがない…
ダンスチームを組んでも衣装合わせをすることは滅多に無かった。
まぁ、それまで力を入れてダンスで何かすることが無いからでもあるが。
「似合うね」
そう言って服を整えられ、なんとも言えない気分になる…無意識なんだろうが、…
ゲイ界隈に居たら受けのタイプの男からモテんじゃないだろうか?…なんて思っていた。
「で、どこに行くんですか…?」
1番不安がデカかったのはダンスよりもステージの場所だ…下手をすると援交の待ち合わせにつかってる場所に近い可能性が高い。
既に降りた駅から不安が隠せなかったが…
ダンスバトルなどをやるステージというと大体限られていたし…
大体がラブホテル近くにあったイメージだからだ。
「ついて来ればわかるよ」
そう言われて歩き出す春輝を掴んだ。
「場所によっては、行けない」
これだけは譲れないからと、
じっと俺が睨みつけるようにしてると…
「あれ?りーちゃん?」
なんて嫌な声がするもんだから、
やっぱり来るんじゃなかった…
断るべきだった…と後悔した。
最悪だ…
と、内心思いながら俯く。
「ね?そうだよね?今日の相手はソイツなの?」
「いや…」
俺が何かを言い返す前に春輝が急に後ろから俺を抱きしめるようにするのでビックリした。
「そうなんだよね、だから話しかけないでくんない?」
そう言って俺を庇うようにした。
話を合わせてくれてんのか…?
「へぇ…お兄さんみたことないけど、攻めっぽよね?…りーちゃんはバリタチの方が向いてるでしょ?でも愛撫してあげると嬉しそうなのも中々いいんだけどさぁ〜?一回ヤったらやめらんなくなるっての?」
過激な内容をつらつらと口にするものだから春輝の耳を覆いたくなった。
全部フリに決まってんだろ…自分の性的欲求を満たすためだけに付き合ってやってるだけだよ。
ある事ないこと言いやがって…
「お前に言われなくても俺の方が付き合い長いから知ってるし、りーちゃんの事知らないのはお前の方なんじゃないの〜?どうせワンナイトだろ?」
…は?…思わず耳を疑った、ふと春輝と目が合う。
俺が何も言えずにいるから出方を待ってんのか…
こうなったら腹を括るしかねぇな…
「今の相手は彼だから、もう話しかけないでください…行きましょう」
春輝の腕を掴み引っ張るようにすると合わせてヤツから背を向け歩き出してくれた。
何か納得いかないのか、チッと援交相手だった男は舌打ちをしていたが追ってくることは無かったので見えなくなった所で深くため息をついた。
「ウケる」
春輝は突然ため息をついた俺を見るなり言った。
笑い事じゃねぇんだけど…
俺も笑うしかない。
「…誰にも言わないでくださいね…」
ただ、それだけは言っときたかった。
言われたらお終いだ。
ダンスバトルに付き合ってやるから言うなよぐらいの気持ちだったが、
春輝は急に俺の頭をポンポンとする。
「まぁ、何があんのか知らねぇけど…いいんじゃない?男が対象だって友達結構いるから気にすんなよ」
論点は違うが、だから話をうまく合わせてくれたのか…という部分は納得できた。
「友達結構居るって…ゲイでは無いんですよね?」
「いけなくないけど?」
「マジか」
思わず仲間なのかと思ってしまったが、
「女の子の方が俄然いいけどね」と言われて変に期待を裏切られた気持ちになった。
というか気軽にこんな話を出来るのが不思議だ…
バレてしまったせいかもしれないが、
当たり前のように口に出されると隠していた自分が馬鹿らしくなってくる。
「まぁ、どっちにせよ攻めってやつじゃん?相手が嫌って言われても俺が楽しかったら、やめてやんねぇし」
「鬼畜かよ」
思わずマスクの裏でニヤけてしまう。
下ネタトークをされるとなんか駄目なんだよな。
どうも調子に乗ってしまいそうになるのを必死に堪えていると、
「バリタチな理人は?」
なんて聞かれて「俺もまぁ…攻めたい」なんて普通に答えてしまった。
「じゃあ、俺たち攻め攻めじゃん〜エッチだね〜負けねぇけど♡」
なんて言われるから、思わず声に出して笑ってしまう。
「少しは隠せよ!!!!」
と笑いながら言うと。
「え?なんで?理人めちゃくちゃ楽しそうなのに?」なんて煽られるから笑いを堪えながら腹パンを軽くすると「ギブギブ」と手で避けられる。
意外と面白くなってきた。
こういうトーク出来るのも悪く無いかもしれない。
春輝だったから…助かったのかもな…
「で、どこに行くんだ…?」
本題に戻ると携帯を見せられた。
その画面に映る会場を見てホッとする。
そういう界隈とは違った、小さなイベントだ…
日が暮れ、夜の闇に街が包まれ始めた頃…
会場に向かって春輝と歩き出しだ。
そこで、予想もしなかった騒動に巻き込まれる事になるとは…
まだその時は思っていなかった。
…
ガヤガヤと音が響く。
ネオンに光る看板、強面の男達にギラついた女ばっかの裏道を理人と歩く。
話しかけられるのは慣れてるが今日の用事は違うんだよな…
やっと目的の会場についたので、
チケットを出すとステッカーを渡される。
貼って剥がせるタイプのやつだから服に貼れる、良くあるやつでスタッフになった気分だな
なんて思っていた。
会場内は異常に煙が立ち込めている。
というのも全面煙草を吸ってるやつばっかだったからだ…
「理人平気?」
「目が痛いな」
そりゃそうだろう…というか空気が悪すぎる。
換気とかしないんだろうか…
理人が敬語じゃなくなってきていたので、ちょっとは警戒が解けたかな?なんて考えていた…
それにしても、異様な空気だ。
ダンスバトルというイメージでは無い。
明らかに体格の良い男とイヤらしい女と…
死角でイチャついてるやつもいるし、
理人が援交をするような人間じゃなかったら、
結構しんどかっただろうな。
「本当にダンスバトルなんてあるのか?」
理人に言われ俺もそれは感じていた。
「ヤバイね、罠かも」
「おい…」
感じてるのは視線…そう、俺に対する視線だった。
こういう事が過去多かったから直感で感じる。
「見つけたよ鷹左右くん」
不意に華やかな男が俺に近づいてきた。
「誰だっけ?」
本当に記憶には無いから聞いてみると、男は苛立ったようにトントンと貧乏揺すりをした。
「中学時代に仲良くしてた速川だよ?覚えてないの?」
「しらねぇわ…」
そう言った瞬間、速川と名乗る男は手に持っていたグラスを俺に投げつけてくる。
「危な…っ」
理人が身構えるより早くグラスを即座に手に取る。
ギリギリで水は溢れなかった。
「…本当に覚えてない?」
速川が睨みつけてくるので、ふと思い出した。
そういえば俺はコイツに水をぶっかけられた事があったな…手に持ったグラスをひっくり返し、速川の頭から水をかけた。
「思い出した、水かけてきたやつじゃん」
「何してんだ!」
理人が俺の行動を静止しようとしたが、
間に合わない。
「てめぇ。」
速川はキレ気味だった…
理人には悪いが、この場は戦場になるだろう。
全員俺に対して目が冷たいからだ。
肌で感じるほどに。
「理人、戦える?」
「…そうなると思ったよ」
背中合わせになる…
理人は弱く無い、きっと大丈夫だろう。
「せっかく招待してやったんだし、楽しんでもらおうと思ったのにさぁ…」
速川はタオルで自分の髪を拭きながら俺に話し出す
「さっさと、くたばってくれよ?」
「ウザ、てかさぁ…裏切だよね?」
ざっと周りを見回すとダンスでチームを組んでた奴らが居た。
最初からなんとなくわかっていたけど、仲良くしてくれていたのも上辺だったんだろうな。
「そうだよ!悪いかよ!誰がお前なんかと組むか!」
あんなにダンスとか丁寧に教えてくれていた癖に…
まぁ裏切りなんて慣れてるしどうでもいいんだけどさ…金だけが俺を裏切らない…
最近はそう思い始めていた。
「…おかしいだろ」
何故か理人が煽り出す。
「お前らより俺の方が付き合い短いけど、春輝の事知らない癖に裏切って挙げ句の果てにリンチなんて卑怯でしかねぇな…どうせ弱いんだろ?さっさと来いよ」
なんて、言うもんだから俺が思わず声を上げて笑ってしまった。
「なんだよ…」
「さっきの俺の言葉ちょっと真似したでしょ」
「やられたら…やり返す」
「そーいうの嫌いじゃねぇな」
2人で話していると「ごちゃごちゃうるせぇ!」と1人の男が理人に殴りかかる。
それをすんなり避けて理人が近くにあった椅子を転がすと上手いこと男の足が絡み床に転がった。
「くそッ!」
それをきっかけかのように、一斉に周りの男どもが向かってくる、とにかく視界が悪いが状況は全員一緒だ。
感覚頼りになりながらも男達の叫び声や痛ましい声がして思わずにっこりと笑ってしまう。
理人やるじゃん。
見た目より強いっていうイメージがより一層増したし、タチね…わかるかも。
なんて、全然戦いと関係ないことを思っていた。
ヒュンッと勢いよく、振りかざされる長物を間一髪で避けると考え事をしてる場合じゃなかったか…
なんて思いながら反撃に出た。
すると、カンカンカンなんて軽快な音がして、
何だ?と振り向くと理人が二階に駆け上がるのが見える…
それを見て「いいこと思いついた」と思わず口に出してしまう。
「理人!飛べ!!!!!」
「はぁ?!」
正直、勝てる喧嘩だったがこれ以上理人を巻き込むつもりはなかった。
俺が狙われてただけだから逃げてまた1人でくればいい話だ。
「早く!!!!」
「わかったッ!!!!」
俺が手を伸ばしていたからだろう、思いっきり俺の上から飛んできた、キャッチしていいやつ?なんて笑ってしまう。
それと同時くらいにパフォーマンスで使ってやろうとしていたスモーク花火を一斉に投げた。
花火が視界を余計に悪くする。
理人を正面から抱き留め「ウケる、俺に向かって降りてくるとは思わなかったんだけど」というと
「お前が飛べって言ったんだろ!」
「そーだね、まぁとりあえず行こう…もういいや」
「え?」
有無も言わせないよう理人の腕を引っ張り駆け抜けようとすると、
「ちょっと待て」
と言って理人が近くにあった長めのモップを手に取り素早く道を阻む男達を薙ぎ倒した。
見ていて気持ちがいい…
「ひゅ〜やるねぇ…♡」
口笛を吹きながら理人の技を見つつ、
会場を駆け抜ける。
何度も此処には来たことがあるから裏の扉もわかる…
上手くすり抜け、外に勢いよく飛び出したが、
まだ会場近くだとまずいよな…
「逃げきんの大変だし、あれ入る?」
なんてネタでラブホテルを指差すと、「このタイミングでそれはやべぇよ」と理人が笑っていた。
敬語じゃなくなってたのも嬉しかったが、
こういうノリで返してくれるタイプも学校の中で今は中々いないから仲良くなっときたい…
なんて思っていた。
「近くのダンスイベントやってるとこ知ってるから紛れちまおう…多分もう電車ないしさ…」
「だよな、学生なのバレたら終わる…」
そんな話をしながら裏道を掛け抜けた。
パッと華やかな扉を見つけ中に入り込む。
「巻いたな」
理人が床に座り込んだ。
結構疲れさせちゃったのかも…
「あれ、春輝?珍しいね」
「あ、店長〜!部屋貸して!金今度払うから」
すぐさま会えると思ってなかった店長に出会えたのはラッキーだったな。
「春輝ならいくらでもいーよ、はい鍵」
「ありがとね〜」
と鍵を受け取ると理人を見るなり「そういうこと?」なんて耳打ちされた。
なんだ?どういうことだ…?
「楽しんでね」なんて口にされて、
まさかな…?
理人を見ると目を逸らされたので完全に店長ともヤッたことあるんだな、なんて推測してしまった。
部屋に入ると椅子に理人が倒れ込む。
「ごめんね、疲れた?」
「いや、最後まで出来なかったからなんかな」
逃げたことに納得行ってない様子か。
「俺の問題だったし充分助かったよ」
「1人で行くつもりだろ…まぁ、なんかあったら呼べよ中途半端なのも気持ち悪いし」
そう言って肩をポンなんてされる。
めっちゃいいやつじゃん…
「わかった、じゃあ今日は俺が性欲処理してあげんね♡」
「いや、俺抱く方だからやらなくていい」
「意外とハマるかもよ〜」
「妙に生々しいからやめろ」
なんて戯れていると、不意に好きな音楽がステージから流れてくる。
「あ、俺この曲好き」
「俺も好きだな」
そんな話をしながら、せっかく来たんだしとステージ前で2人して騒いだり部屋で話したり、
いつの間にか普通に会話して楽しんでいた。
ベットもあるし、シャワーもある快適な場所に転がり込んで店長様様な感じだ…
奴らも追ってこなかったし、
朝になって落ち着いたら帰ろう。
そんなこんな遊ぶことに夢中で
ずっと跡をつけてきていた影にも気付かずにいた。
next Stage …???
…
はーい!どうも!
神条めばるだよ♡
かなり遅くなりましたが、理人くんの続きの話になっております!
この話は、更にまだ続いていきます…
だからこそ、ずっと寝かせてました!!
近々何か起きるのでシナリオとまた合わせてTwitter内をお楽しみいただけたら幸いです!
その時にまた、いろいろ語りたいので、
シキケンBLも楽しみつつ( )
また次回…!!!
駆け抜けたいと思いますーーー!!!
…
最初のコメントを投稿しよう!