ある大学生

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ある大学生

 豊橋のある大学に、一人の大学生がいた。といっても、テレビや電車などで見かける清潔感があり、凛々しくて、明るい未来が嘱望されているような大学生ではない。いや、むしろその対極に位置する大学生と言える。彼の容姿を一目見れば、彼のキャンパスライフがいかなるものは瞬時に判別することができるだろう。無論、薔薇色のキャンパスライフなどではない。ヨレヨレのチェック柄のTシャツと、ダボダボのベージュ色のジーンズを履き、髪は無造作に生え散らかし、顔の一面中に薄汚いゴマ髭を生やしていた。背は恐ろしく高く、ひどく猫背であり、みすぼらしい服装と相まって、一層情け無い風情を醸し出していた。そうして、暗闇の中を飛び回る蛾のような嫌悪感と悲愴感を周囲の人間に与えていた。
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