風体は大学教授

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風体は大学教授

 谷口サトシには親しい友がいなかった。そのため彼が、どのようにして大学に受かり、また大学一年生という側から見れば華々しく、内情は幻滅に次ぐ幻滅の期間をどのようにやり過ごしたのかについて知る者は誰一人いなかった。ただ彼を知る者達は、毎日相も変わらず、同じ席で講義を受け、決まった時間に生協でただ一人昼食を取り、大学構内をぶつぶつと独り言を呟きながら歩いている、ということだけを知っていた。  谷口は教職課程も受講していたため、彼と同じように教職課程を受講する者たちからよく冷やかされていた。彼らは谷口が教室内に入ってくるたびに、「大先生が来たぞ」と身内の者に囁き、彼のあらぬ噂話を始めるのが常だった。オシャレに気を遣い、交友関係を何よりも大切にする大学生にとって、谷口は異質な存在であった。
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