真面目さ

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真面目さ

 しかし、谷口はこうした仕打ちに対して、全く動じなかった。それどころか、こうした仕打ちをさも当然のように受け入れ、ただ一人大学の図書館に籠り、課題に必要な資料を集め、そこで得た情報を黙々とパソコンに打ち込んでいた。そうして彼が仕上げたレポートは、実によくまとめられていた。唯一彼に長所というものがあるとすれば、本や講義で知り得た情報を誰にでも分かりやすくまとめ、ノートなり、電子媒体などに記入することだった。そして、こうした地味で退屈に思われる作業に、谷口は無情の喜びを見出していた。ノートに文字を書き起こし、それをいかに編集するかについて、彼は熱心に取り組んでいた。  そうした理由から、彼は教授の言葉を片時も聞き漏らすことがないように、全神経を集中し、講義に取り組んでいた。それ故、普段無口な彼も、彼の周囲が騒がしい時だけ、彼は初めて口を開くのである。「お話中すみません。もう少しだけ静かにしてくれませんか?」その声音と言葉遣いは、通常同級生に対して使われるものとは思えぬほど、丁寧で真摯なものであった。そして、その言葉には人の心を揺さぶる情念のようなものが込められていた。
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