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壱 厄病神と死神
青々とした空で燦々と太陽が照り付ける中、男は深く被った笠を上にずらすと、すっと伸びた鼻筋が顔を出した。二つの山を越えてきたせいか、春先でも額には汗が滲んでいる。
男の名は萩。今は旅人の姿に扮しているが、ここから遠く離れた蛍国に仕える忍びだ。
この村へ向かう任を受けたのは、二日前の事。その日、珍しく大名直々に城へ来るよう言われ、よほどの大仕事なのだろうと考えていた。
しかし、城の小さな個室に通されてすぐ、大名、蛍原 福彦から思いもよらぬ問いを聞かされたのだった。
「萩、霊や妖を自在に操る“神遣い”と呼ばれる者について知っておるか?」
――は?
その怪しげな問いに、萩は跪いたまま、その一文字を飲み込むしかできなかった。
萩自身、霊や妖の類を信じておらず、そもそも興味すら無い。誰が何を信じようが勝手だが、大名が国のあれこれに関与させるのはまた別の話。勿論、ただの興味本位であったとしても、そんな事で忍びを遣わせる事、それが自分である事も言語道断だ。
それに大名とは言え、蛍原はまだ十三になったばかり。彼の優しさと頭の良さは国の誰もが認めていたが、この発言を聞いて、「とうとう変な大人に洗脳されたか」と疑うのが普通だろう。
「お主、ふざけているとでも思っておるだろう?」
静寂な間に痺れを切らしたのか、蛍原は萩の心を言い当ててみせると、こういう所がやりづらいのだと、萩は無言のまま目を瞑った。
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