壱 厄病神と死神

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「信用せんのも無理はない。ただ、その“神遣い”とやらを他の大名達が血眼になりながら探しておる。これは事実じゃ。きっと、戦の道具にでもと思っておるのだろう」 その言葉は、十三歳と思えない程落ち着いていて、どこか哀しみを帯びていた。 「だが、このままでは神遣いを巡って先に戦が起きてしまう。それを阻止する為に、神遣いを探って欲しいのじゃ。可能であれば、この国で保護も考えておる」 「まさか、神遣いと名乗る者全員をこの国に連れて来いと?」 今まで黙って伏せていた萩が、馬鹿馬鹿しいと言いたげな声色でギロリと蛍原を睨んだ。勿論、無礼である事は重々承知している。それに、萩は忍びだ。国の情報を知りすぎてはいけない。きっとこの場に他の人間が居れば、最悪処刑されていただろう。ただ、この部屋には萩と蛍原の二人のみ。それが返って、この滑稽な案件を極秘にしたがっているようにも思えてしまった。 「神遣いか何か知りませんが、“自称”陰陽師や霊能力者がどれだけいるかご存じですか? そんなはったりで金儲けしている奴等のせいで戦? 騙される馬鹿同士、勝手にすればいい」 やはりまだ十三かと、お灸を据える意味できつく言い放った萩だったが、その言葉を聞いて蛍原は突然、けたけたと笑い出した。 「流石じゃ! 萩。お前は最後まで信用せんと思っておった。だからこそ、紛い者に騙されず、連れてきてくれると期待しておる」 そう言うと、懐から一つの巻物を取り出し、萩の目の前に広げて見せる。そこには墨で書かれた文字がびっしりと敷き詰められていた。 「神遣いはそこらの“自称”陰陽師達とは違う。詳しい歴史まで定かではないが、神遣いは二つの種族しか存在しないらしい。それと、その存在を知っているのは限られた者のみ。我も、父上から聞いた話とこの巻物しか情報は無い。しかし、何故か神遣いの情報が漏れた様に噂が出てき始めたのじゃ」 蛍原の言葉を聞いて神遣いが益々ただの作り話のように思えた萩は、気の進まないまま巻物に目を通した。 「『赤血(あかち)族』……?」 「あぁ。この巻物は神遣いの一種族、“赤血族”について記されている。これによれば、国の外に有る山二つを越えた村の“赤血神社”に居るらしい。ただ、なんせ昔の巻物じゃ。情報が曖昧すぎる」 「その神社を探れと?」 「然様。気が進まぬなら、神遣いが嘘か誠かだけ調べてくれればよい。お主なら、それぐらい突き止められるじゃろう」
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