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プロローグ 覚醒
…………熱い、熱い、熱い、熱い、
目の前一面、火の海につつまれている。
顔を動かせないけど、全身火傷しているのだろうか。
痛みは感じない。
痛覚が麻痺して、周囲の熱以外何も感じない。
……いや違うな。
今にも途切れそうな意識の中で、一つだけ残された感情がくすぶる。
しかし、感情だけが先走り、身体に力が入ってくれない。
もうダメか。
『憎しみ』に身を任せていたが、限界はきていた。
なんのために戦ったんだっけ?
……復讐だ。
わかっている。だけど復讐したところで、死人はよみがえらない。
……誰のせいで死んだ?
盗賊のせいだろ。あいつらが、この村さえ、襲わなければ。
……本当にそれだけか?
無意識に頭にきこえる質問は、まるで俺の本音を言わせようとしてるみたいだ。
自嘲気味に笑おうとするが、力ない笑みからは空気の吐き出す音しかしなかった。
俺のせいか。俺が村を離れたから。遠くに行ったから間に合わなかった。
……そうだ。
いくら自分を正当化しようとしても、この事実は変わらない。
……おまえは逃げて、死ぬつもりか? ふざけるな。
敵に抱いていた『憎しみ』と、自身にむけた『怒り』が混ざっていく。
その瞬間、身体の内から、紫色に鈍く光る塊がわきでてくる。
抵抗する気力もなく、その塊に取り込まれていった。
……これは罰だ。最期まで無様に戦え。
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