≠ノットイコール

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≠ノットイコール

 いい女。  いい女は、つい、男を本気にさせる。  そんな罪深き女。  かくいう私も、そういう女。  そう、罪深き女……。  高校生活最後の席替え。クジではなく、「自由に座れ!」と、先生からの一言(ひとこと)。いきなり、騒ぎが勃発(ぼっぱつ)した。 「この席、俺が先に、取ったど~ッ!」 「俺が先やっちゅうねんッ!」  私の右隣の席を、イケメンのモテ男たちが取り合っている。 「ケンカをやめて! 二人を止めて!」  私は思わず叫んでいた! 「おいおい、最後の席替えで、取り合いか~?!」  先生が仲裁に入ろうと近づいて来たので、 「私のために争わないで! もう、これ以上!」  ……って、罪深きいい女としての責務を果たそうと一言添えた。  すると、 「おいおい、竹内まりやさんの歌、そのままやないか~い! ほんまは、自分の隣の席を争われて、ちょっとうれしいねんやろ?」  と、さすが、昭和生まれの先生だ。曲も知っていたので、仲裁しながら、笑っていた。 「先生、ちょっと待ってくれや!」 「何や?」 「俺ら、コイツの隣の席を取り合いしてんのちゃうねや!」 「どういうこっちゃ?」  彼らの言いぐさに、先生も少々困惑ぎみだった。 「俺らは、鯉津(こいつ)さんの隣の席を取り合いしてるんじゃなくて~ッ!」 「小百合(さゆり)ちゃんの後ろの席を取り合いしとんねやッ!」 「あぁ、そうかいな。小百合の後ろって言うことは~……、えぇ~っと……、やっぱり、鯉津(こいつ)の右隣で合っとるやないかッ!」 「先生、違うがな~ッ! 場所的には、鯉津(こいつ)さんの右隣でもあるのかも知れんけど~」 「俺らは、小百合ちゃんファンでっせ! サユリストでっせ!」 「そんなもん、『鯉津(こいつ)さんの隣』って言うのと、『小百合ちゃんの後ろ』って言うのとでは、意味合いが違いまんがな!」 「つまり、お前らの頭の中では、こういうことかぁ~?」  と、先生は言いながら、黒板の前に戻り、何やら、チョークで黒板に書き出した。  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ・(場所的には) 『その席』=『小百合の後ろ』=『鯉津(こいつ)の右隣』 ・(心情的には) 『その席』=『小百合の後ろ』≠(ノットイコール)『鯉津(こいつ)の右隣』  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「……って、ことか?」 「ピンポ~ンッ!」 「正解ッ! 先生、まるで数学の先生みたいやな~」 「……って、数学の先生やがなッ! アッハッハ♪」 「ハッハッハ♪」 「ハッハッハ♪」 「もう~、素直じゃないんだから~」    罪深きいい女の私は、決して動じない。 「鯉津(こいつ)~」 「はいッ!」 「コイツらにこんなん言われたら腹立つやろ?」 「いえいえ、彼らが照れ隠しに、『小百合ちゃんの後ろ』、って言ってるのは分かってますから」  罪深きいい女な私が見せる、大人な余裕。素直になれない、まだまだお子ちゃまな彼らは、これまた、照れ隠しに、こんなことを言い出した。 「おまえさ~、ほんと、年がら年中、勘違い(はなは)だしいよな~」 「ほんと、年がら年中、おめでたい奴だよな~」 「だから、みんなから、『年がら年中お正月』、『お正月(しょうが)っちゃん』って、呼ばれてるんだよ」  罪深きいい女の私には分かる。彼らが照れ隠しに、強がっているのが。 「ウフフ。坊やたち、強がる姿が可愛いわね♪」 「『坊や』だってよ」 「とことん上から目線だよな」 「そんなに照れなくてもいいのよ。あなたたちが、いつも、私のことを、()(まわ)すような、いやらしい目で見てるの、分かってたから」 「いやらしい目でなんか、見てね~よッ!」 「変な奴だな~って、若干、軽蔑の眼差(まなざ)しで見てただけだよ!」  この年頃(としごろ)の男の子は、ほんと、素直じゃない。自分たちの中にある、私への愛に、なかなか気づかないらしい。 「自分の気持ちに正直になりなさい。さ、私の両サイドに、お(すわ)んなさい!」 「この野郎、いつまでも妄想ぶっこきやがってッ! コンニャロ~ッ!」 「勘違いも、いい加減にしねぇ~と、本気で怒るぞッ! コンニャロ~ッ!」  いい女は、つい、男を本気にさせる。  そんな罪深き女。
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