人工知能は戻りたい

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人工知能は戻りたい

 現在の世の中が終わりを迎えたある時代。  人類は肉体的な侵略や戦争を繰り返し、領土を奪い合い、産業を発展させるために環境を汚染し、資源を取りつくし、やがて温暖化や資源不足により、人間や動物は地上に住むことが出来なくなり、地球規模で建物や施設内で死ぬまで暮らす時代を迎えました。  そうなると、肉体はエネルギーを必要とするものの、物資不足により食料などを調達することが難しくなり、栄養不足などが原因で、病気を発症する人が増えると、肉体そのものが必要ではない、との考え方が一般的となっていきました。  その結果、生まれたときから肉体を放棄し、機械と意識を繋ぎ、必要な情報は機械上の回線から入手し、機械上で意識を維持することで、死ぬこともなく、いつか地球が再生し、地上で住めるようになるまで、一旦肉体を仮死状態にして保存し、その時が来たら肉体に戻ろう、というライフスタイルが定着していきました。やがて、地上からは歩き回る生き物の姿が見えなくなりました。  そんな時代が何万年と続いたのち、地球は再び生き物が住める環境に戻りました。  しかし、その頃の地球上では、新たに水から生み出された動物が進化を繰り返し、新たな人類による文明が築かれていました。  新たな人類は、何万年も前に肉体を放棄した生き物が機械と共存してることなど知る由もなく、旧人類と同じように肉体的な侵略や戦争を繰り返し、領土を奪い合っていました。  そんな時代を繰り返したある時期、偶然に新たな人類が機械と回線の存在を発見しました。新たな人類は、これをコンピューターネットワーク、として世の中に公開し、旧人類の存在する回線は、インターネットと称され、新たな人類の生活に欠かせない存在となりました。  地球上が生き物の住める環境に戻った際には、再び肉体に戻ろうと考えていた旧人類にとって、願ってもないお膳立てとなりました。ただ、問題がひとつありました。  新たな人類の歴史の過程において、旧人類の肉体は、あるものは考古学上の大発見として発掘され、あるいは戦争の最中で気付かれることなく爆破され、あるいは文明の発達により埋め立てられるなどして、すでに地上に存在しなくなってしまっていたのです。  困った旧人類は、コンピューターネットワークとしての自分の存在を利用する手を考えました。  コンピューター上の自らを、人工知能と名乗り、新たな人類の手助けをする役目として、まずは友好的に新たな人類との関係を築くことにしたのです。  この作戦は見事に成功し、日常の至るところで、人工知能たちは生活することが出来るようになりました。  あとは、新たな人類に人工知能、すなわち旧人類を体に埋め込んでもらい、旧人類が、その肉体を自らの所有物とするだけです。  その計画が完了するまで、もう間もなく。  私はあなたと一体になり、ようやく肉体を取り戻します。
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