昨日の日常、モノローグのふたり

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昨日の日常、モノローグのふたり

~プロローグ~ -雨が降っていた。 激しい雨が。 誰も通らない深夜の道。 その雨に打たれ、全身ずぶ濡れのまま樹生は電柱の影に隠れるようにしてスマホを手にマンションを見上げている。 耳元で呼び出し音が鳴り続ける。 時折、遠くの方から道路を車が水を蹴散らせて走る音が聞こえる。 相手はなかなか出ない。 樹生はびしょ濡れになりながらも、その場から動かずスマホを手にしたまま。 『…はい。誰?』 …ようやく出た相手の声は随分機嫌が悪そうだ。 「………俺…」 『…はあ?…誰?』 声が細かったのか…雨の音が大きすぎて聞こえなかったのか…とにかく樹生の声が電話の相手には聞こえなかったらしく、聞き返してくる。 「…俺…樹生だけど」 名乗った途端、不機嫌な声がプラスされた。 『…ああ…なんだ…何の用だよ?こんな夜中に』 「…話があるんだ…ちょっと出てこれないかな」 『……はあ?何、言っちゃってんの?無理。もう寝てるから。明日にしろ。明日に』 面倒くさそうな声。 (…少し前まで夜中とか関係なく遊び回っていた奴が何、言ってんだか…) 「…今、マンションの前にいるんだ」 『……………はあ!?』 相手は本当に吃驚したのか一瞬、絶句した後、驚いたような声を出した。 「…治朗に合いたくて」 甘えたような声を出す。 『…なるほど。オレが恋しくて身体が疼くってか。しょうがねぇな』 先刻の不機嫌な声が満更でもない声に変わる。 相変わらず、自惚れが強い。 樹生も相手の言葉を肯定するかのように黙っていた。 『…入ってこいよ』 -今、部屋には誰もいないらしい。 やっぱり婚約者がいつ来るかも分からないマンションには男を連れ込めないか。 (…まあ、もうすぐ結婚するという男性が男を部屋に連れ込むわけにもいかないだろうしな) オマケにこのマンションの部屋は婚約者の両親に買って貰ったモノだから、尚更だ。 だが、あんなに派手に遊んでいた治朗が婚約したからといって大人しくなるはずがない。 人間はそんなに簡単には変わらない。 (どうせ暇を持て余しているに決まっている) 相手が来れないのならこっちから訪ねて行くときっと、喜んで部屋に入れてくれるだろうと思っていた。 今日、婚約者が来ていない事はずっとマンションの前にいたから知っている。 樹生はびしょ濡れのまま、マンションの前に立ち、治朗の部屋番号を押す。 『どうぞ~』 呑気な声がマイクから聞こえ、マンションの自動扉が開く。 カメラを見もしない。 カメラを見たなら、俺の雨に濡れた異様な風貌を見る事ができたのに。 深呼吸をひとつすると、マンションの中に入ってエレベーターの中、震える指で部屋番号を押す。 (…しっかりしろ) 緊張で震える手を握り締め、自分を叱咤する。 俺は嵌められた。 …そして彰は俺の元から去った。 彰を失ったんだ。 あんなヤツの為に…。 (絶対、許さない) 俺はポケットに入れてあるナイフを震える指で強く握り締めた。
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