悪魔の平穏

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悪魔の平穏

「所詮、人は神と悪魔の区別も付けられない んだよ。」   僕らは剣を振るった。悪魔にとってそんな人の武器など使う必要性はない。そこら辺の鉄の棒より己の肌の方が硬い。  この剣は昔戦場になっていた場所にから持って帰ってきた。  つばぜり合いになって、兄貴が、 「またその話か。」  言いながら、力任せに押し込まれる。僕は宙返りして距離を取る。  兄貴と僕との力の差は、どうやったって埋められない。悪魔としての位の差は絶対である。兄貴はだいぶ高位だが、何の悪魔だかは知らなかった。  僕は下位の悪魔だった。人の悪魔辞典にすらのらないほどである。名前や理性の類いもない漂うだけの存在だった。弱く、吹けば消えるような儚い悪魔だった。 「神が人に授けるのは言葉。悪魔が授けるのは現物。」  兄貴からの名前を貰い僕は理性を得た。言語を扱えるようになったのが、一番の恩恵かもしれない。  僕の名前は、鵜の目の悪魔。 「見返りは、神なら信仰。悪魔なら、現物。」  二歩で詰めて来て、凪ぎ払い。兄貴の大剣を紙一重で避けて、突き打つ。回避の体勢のまま無理に狙ったため、隙ができた。兄貴に突きを弾かれ、腹に拳がめり込む。  吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がり、壁にぶつかってようやく止まった。刀を杖に立ち上がる。 「結論ある話をしろ。誰も聞いちゃくれないぞ。」 「今から、その話をするんだよ。」  兄貴は剣先を地面につけた。  僕は、 「悪魔も貿易に参加すべき。」 「無理だろ。何を差し出すんだよ。」 「いや、できる。神は去った。巨人は消えた。龍は墜ちた。天使は後を追った。世界には上位種族はいない。残されたのは、対等な種族のみ。」 「……種族内で差別が起こっている。今、上位種と下位種が生まれようとしているがな。」 「そこだよ。悪魔の価値は。差別という感情を人から抜き取り、そこから悪魔を作ればいい。」  悪魔は感情から生まれる。差別という悪魔は産み出せるはずなのだ。 「獣人種も、エルフも、人間も、差別がある。」 「確かにな。獣人種は人魚を下等だと言い。エルフは人間を奴隷にして、人間は機械を物として扱う。その感情を売ると?」 「そうさ。人の歴史を見れば滅びの原因は内乱でしょ。それはつまり商売として成り立つ。」  兄貴は思案するかのようにうつむいて、口に手を当てた。  僕は純粋に嬉しかった。兄貴が一考の余地があると思ってくれるほどの計画を練ることができたのだ。  兄貴が口を開く。 「それは無理だ。悪魔が悪魔足るのは、感情の純粋であるから。差別は何であるか分かるか?」 「悪意。」 「違う。善意だよ。例えば誰かが平等を訴えれば、その思想に付き従うものと、訴えたリーダーと、で差が産まれる。もちろんこれは過激になると起こる現象だけどね。  差別がある、公平にしなければ、自分がやらなければ。というのが普通の思考の流れだ。  ただそこには、自分の方が出来るという自尊心が潜んでいる。果たしたとしても、そいつはきっと英雄と言われるだろう。それがまた差別を呼ぶ。  そこに悪意は無いんだよ。不満があっても、それは多くの奴が困っているから、っていう理由だよ。基本的には正義感。つまり善意。   善意の悪魔はいないだろ。」 「善意の悪魔を完成させられれば、可能だと?」 「まあ、それができたら、可能かもな。」  また、否定されてしまった。悔しい。だが、上出来と言えばそうかもしれない。兄貴が一考しただけでも、進歩だ。今まで即反論され、言い負かされていたのだ。  悪魔の地位向上の可能性を提示できただけでも良くできたほうだ。これを詰めよう。そして、いずれ善意の悪魔を実証しよう。 僕ら以外の声が聞こえた。 「おーい。お前ら。今日暇か?」  僕は、 「師匠? 何してるんですか。今日は来賓が来るから、魔王城に居なくちゃいけないって。」   「ああ、まだ時間じゃないからな。それよりこの後予定が無いなら、やってほしいことがあるんだが。」 「俺らは見回りの番ですよ。今日。」  兄貴が師匠に近いて、言った。僕も近寄った。 「ああ、ならいいや。明日でも。」 「何かあるなら、言ってくださいよ。」 「お前らに宛てて勅命が下った。」 「なぜ、俺らに命令が来るんですか? 怪盗にしてやられた、俺らに。」 「内容を見ればわかる。」  兄貴が師匠が持っていた紙を覗いて、納得したようだった。僕も紙を見せてもらう。  エクスカリバーを探してこい。
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