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僕は二人の走りに追い付けなかった。銃声箇所まで思っていた以上に、距離がある。だいぶ下って、壁沿いにいくつかさらに直下に掘った後もあった。開拓中なのだろう。
奥に進むにつれて、明かりが増えていく。悪魔の仕業ではないだろう。
入り口付近にはなかった。ということは、開通しているかもしれない。
この方角、エルフの国だ。
そうか。来賓はここを通って来たのか。他国に悪魔との繋がりを隠したまま来ることが可能か。
もう一発、銃声が聞こえた。近づいている。壁から、破壊音が続いた。打撃? いや、違うな。何かを切りつけた感じだ。兄貴と訓練の時に馴染んだ感じがする。
誰かが争っている。片方は銃、もう片方は剣だ。
開けた所に出た。
視界に納めた。人間が銃を向けていた。僕が見たときには、その相手は、兄貴によって殴り飛ばされていた。
獣人が人間に駆け寄る。
「アル! 大丈夫か。」
僕は遅れていたため、争っていた場所を見渡せる離れたところで止まった。物がほとんどないが、中継地点としての役割がありそうだ。
人間はケガをしていたが、壁に血が飛び散っていないのをみる限り、重傷ではか無さそうだ。
床にも壁にも天井にも抉り取ったような後がある。銃弾の後が他にある。ということは、やっぱり、さっきの敵が剣を使い作ったものだろう。
しかし、斬りつける感じは間違いないはずだ。
壁が一瞬動いたようだった。僕はそこを殴り付ける。拳は壁にめり込み、その奥のエルフにぶつかった。
エルフが幻術を使い隠れていた。それも壁にくぼみを作り、幻術で即興で仕立てている。身を隠さなければ危険が生じる、しかも、緊急性の高い何かが発生していたのか。
とにかく、
「壁には寄るな! 敵が潜んでる。」
エルフはふらついた。僕は拘束しようと迫った時、エルフは壁に触れ、そこから、土が盛り上がり、柱になり顔面を目掛けて伸びてきた。
寸前で避け、止まることなく、狙う。エルフの足元から、土柱が出来る。一歩横に動き、攻勢は崩さず、その時、エルフの目線は僕の頭上にあった。
さっきより大きく横に飛び、僕も視線を動かす。土柱が僕の背後をとっていた。その土柱はエルフの方に伸びて、覆うように広がった。
土の壁を作って、壁の中を掘って逃げる気だ。
兄貴が土壁ごと、エルフを殴った。
倒れたエルフの顔を見るとぐちゃぐちゃではあったが、息はあった。
「大丈夫か?」
僕が返事をするよりも先に、人間が、
「奴から目を離すな!」
その言葉を認識した時には、兄貴が隣におらず、突風に僕はよろめいた。
風の先を見て、壁沿いに引きずられたかのような後があり、土煙が舞う。その合間に、ようやく僕は人間が戦っていた敵を視認した。
それは真っ白であった。人の形をしていた。しかし、感情がなかった。機械か。アンドロイドか。
アンドロイドはそんなに速く動けるものなのか。僕の反射速度を上回るということは、人間より速い。
人間は遂に自分たちより優れた存在を生み出したのか。
土煙が消えて、羽が見えた。美しい漆黒の翼。光すら飲み込み僕らを写す鏡、影を創らないほど儚い、見とれてしまった。
それは兄貴の羽だ。堕天使の翼。僕は兄貴の翼を出しているのを初めてみたのだ。今まで、見回りで人間を追い払って、戦闘になったこともあるが、一度だって発現させたことはなかった。
アンドロイドの攻撃を翼で防いでいた。翼を翻し、アンドロイドを離す。
「嘘……何でお前が持っている……」
アンドロイドの手にはエクスカリバーが手にしていた。
僕は獣人とほぼ同時に仕掛けた。アンドロイドは振りかぶり、降ろす手元を僕が捕まえ、反らす。獣人がその隙に頭部を殴る。
傷一つ付いていなかった。あれ、兄貴の打撃痕もない。気の緩み、振り払われる。なんとか立て直し、獣人の方も距離を取りって、窺う。
兄貴が、
「お前らは手を出すな。」
「しかし……」
獣人は自分では勝てないのを分かっているようで、反論をしなかった。
人間が、
「機械である以上、処理能力に限界があるし、何よりも人が知らない攻撃であれば、機械じゃどうしようもないはずだ。
神話通りの堕天使のあなたなら影が扱えたはずだ。影を扱うのは人は知らない。」
「あれはただの機械じゃない。」
僕は、アンドロイドの持つエクスカリバーを見て確信した。
「エクスカリバーが反応してるだろ。」
「それがどうした。」
「あれは純粋な者が持つと光るんだよ。
じゃあ、水の中や、柄を岩に突き刺して反応すると思うか?
機械は鉱物なんだろ。あの機械の中に誰か居なきゃああならない。」
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