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僕は眼前で行われた攻防を捉えることができなかった。
例え、機械の中に誰かいることが分かったところで、あの鉄壁の体を破らなければ中から引きずり出すことも出来ない。
自分がどれだけ無力か思いしった。井の中の蛙。獣人種の蹴りを避けられない上にアンドロイドと片翼の堕天使の戦いを眺める、ほとんど目で追えない。
できることは何があるのだろうか、弱い僕に。弱者とはこういう時どうやって役に立つのだろうか。
人間なら詳しいかもしれないと思ったが、人間は、動揺していた。
「あの魔術反応……アイツが……」
薄く嬉しさを人間は感じていた。たぶん彼は、自分では気づけないほど希薄に内心に感じていた。アイツ、というのは兄弟のエルフの事だろう。会えるかもしれないという期待している。
人は複雑だな。自分の命が危ない状況で、豊かな発想力をしている。それをこんなにも冷静に見ている自分がいやになる。
誰が聞けば、同情という感情を教えてくれるだろうか。誰かに聞く?
そっか、助けを呼びに行けば良いのか。
「師匠を呼びに行ってくる。」
一声掛け、広間を抜けようと踵を返した時、土壁が入り口を塞いだ。
破壊しようと拳を振り上げたが、やめた。指先で触れるが、土との間にガラスがあるかのようだった。数回しかないが覚えているガラスの感触ではなかった。
振り替えって、周囲を見渡す。まず、兄貴に殴られたエルフはまだ寝ていた。他に何か変化があるはずだ。さっきの幻術と同じような違和感が。
探している内に、兄貴はアンドロイドと離れ、止まった。僕の目に写った。左手から、剣を振り抜くような構え、それは一直線にアンドロイドへ。
次に写った時、エクスカリバーを握るアンドロイドの腕ごと斬り飛ばした。
宙に舞う腕を目で追う。景色に違和感があった。腕の着地点辺り。その正体を探るよりも先に、僕は動いた。それよりも速く獣人がそこを殴る。
景色がブレ、そこにエルフがいた。透明に見せる幻術なのだろう。僕は目標をエクスカリバーを、エルフより先に手に。
エルフはすぐ立て直し、エクスカリバーに手を伸ばす。魔術で糸を手繰り寄せるようにエルフは、掴んだ。
奪う、明瞭になった目的に、体をきり返し攻勢の構えを作る。
視界の端で兄貴がこちら向かおうとしたところを、アンドロイドに立ち塞がれた。
腰を低く保ち、半歩でパンチのフェイント入れて、握られたエクスカリバーを狙うが、避けられる。これで獣人の足技からの範囲から出た。
瞬く間に、顔と胴に二撃づつ。よろけたところで、もう一度エクスカリバーを持っている手首を、捕まえ……られなかった。幻術?
獣人が壁までぶっ飛ばす。
エルフは、嬉しそうな、高揚感の中漏れでる笑い声がした。
「人を殴るのは楽しかったか? 下等生物共。」
やはり傷はなかった。アンドロイドにかかっている術と同じ、いや、術者がこいつなのだろう。
「ソロモン!」
人間が叫ぶ。怒っていた。
「本名を叫ばないのは、知性があると評価してやるよ、兄弟。もし言っていたら、そこの奴は死んでいたがな。」
指を向ける先、ソロモンの従者らしきエルフが人間に銃口を刺すかのように向けていた。
人間を助ける、としても銃弾より速くは動けない。獣人も、銃弾を避けられても、人間が死ぬ前に、エルフを取り押さえることはできない。
兄貴なら。アンドロイドと闘っていた。アンドロイドはいつの間にか、エクスカリバーを手にしていた。飛ばしたはずの腕も直されていた。
ソロモンはほんの少し僕たちの視線を人間に誘導し、アンドロイドを直しやがった。
「野蛮人が。違和感があればすぐ殴る。研究の邪魔しやがって。おい、撮影は無事か?」
人間に銃を向けているエルフが、
「ええ、あいつはギリギリ息をしていました。打撃痕だけで複雑な呪いがあるわけではないので、帰って直せます。」
僕は兄貴に殴られて寝ていたエルフを探したがいなかった。回収された。
あの時、わざと見つけられるように、術を緩めたのか。発見した、という感覚を植え付け先手を取った、奪われた、エクスカリバーを取り返す、この思考の流れはソロモンの思惑通り。
手のひらで踊らされた。
「良し、撤退だ。」
「良いんですか? あの堕天使を捕らえられるチャンスですよ。」
「アンドロイドの限界だ。さすがに俺の術が持たない。堕天使の堕ち羽、相手でも数分持ちこたえただけで充分な成果だ。」
逃がす訳には行かない。動こうとしたとき、兄貴が、
「動くな。人間、殺されるぞ。」
ソロモンは舌打ちをして、
「神のお人形風情が。」
ソロモン……そうか、どこかで聞き覚えがあると思ったら、人間が持ってきた書物にあった。手書きの本の作者だった。
どうして手書きだった?
エルフにだって印刷の技術はあるのだ。もしかすると、
「アル。お前がこいつらを呼んだんじゃないのか。」
「違う!」
人間は即座に否定した。
「じゃあ何であの中には、こいつらの手書きの書物があったんだ。それに、こいつらは兄貴が堕天使の羽だと知っている。僕だって最近知ったばかりだ。
でも、僕らと会った時お前は、天使のような悪魔と言っただろ。お前は情報をこのエルフ達から渡されていたんじゃないのか。」
「違う! 信じてくれ。」
兄貴が言う。
「ああ、信じてやれ。」
アンドロイドの右肘から切り落とした。
「その人間は、盗んだんじゃないか。怪盗だろ。」
ソロモンは笑って、
「でも、僕にぃ、仲間にしてくれって頼みに来たんだけどなぁ。」
人間は、はっきりと強く言う。立場を明確にする。
「ああ、言ったさ。当然だろ。相手の懐に飛び込むなら、交渉の場が一番だ。
なあ、エルフなら詳しいよな。悪魔の国に交渉として入り込んでいるもんな。」
僕は、
「疑ってすまなかった。そうだよな。エルフが今の発言は、味方なら言わないよな。」
ソロモンは非常に残念そうだった。悔しさが見受けられなかった。
「じゃあ、最終手段だ。」
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