悪魔の戦闘

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 兄貴は、 「さあ、終わりだ。」    アンドロイドは肘から、膝から、下を斬り落とされて、地面に伏していた。兄貴はエクスカリバーを握っていた。神々しく輝いていた。  アンドロイドの時とは比べものにならないほど、光輝いていた。目の奥が焼かれる。見てはいけない、本能的にそう思うはずなのに、惹かれる感覚がふつふつと沸き上がる。  何かを誘うような、何かをそそるような、悪魔の原始的な何か。  もっと知りたい、原始の何かを。好奇心が理性を凌駕するような、感情の波が訪れる。  兄貴は、僕がじっと見ているのに気づいたようで、地面に突き立てて、手を離した。  僕は少しふらついた。  ソロモンは、深くため息をして、残念そうに、 「最終手段だ。」  そう言って、一瞬思案するような表情をして、二度、銃声が響いた。  人間がソロモンの隣に立って、足に銃口を向けていた。  それを合図に獣人が突っ込む。  僕は人間がいた場所を見る。まだ居る。エルフもこの状況に驚いているようで、銃を持った手で、煙を払うように人間を殴るが、透ける。  幻術? いや違う、ホログラムというやつか。初めて見た。  僕が今とるべき行動は、加勢? いや人間を抑えていたエルフを捕らえる。エルフは僕に敵意を向けたが、銃声が響き、一、二歩下がる。  ホログラムの中に銃を隠していた。  エルフに銃弾がヒットした頭部と同じ部分を全力で殴る。防壁が、ひび割れる。そこ以外に、二撃、打ち込む。反撃を避けて、もう一打を回避される。  エルフはソロモンに近づこうとする。僕は獣人の回し蹴り真似て、エルフの頭部を壁に押し付ける。めり込む。  完全にノックアウトしている。  加勢と思って、人間の方を見ると、もう取り抑えられていた。  兄貴が、首に影の剣を添えて、さらにエクスカリバーを壁に刺し、ハサミのようにしていた。  人間は吹き飛ばされたのだろう、少し離れたところで、立ち上がろうとしていた。獣人が手を貸していた。  兄貴はソロモンに、 「あのアンドロイドは何だ? 何のために作った? 人間を犠牲にして何がしたい?」  気持ち悪い演技をして、ソロモンは、 「あ、あの、兵器なんです。悪魔と闘うための人間の兵器なんです。  僕らは研究に行き詰まり、解析できていない、悪魔の食事である感情に目をつけたのです。」 「その拙い演技をやめて、普通に喋れ、気分が悪い。」   「俺の演技力も伝わらないとは、本当に下等だな。」  言い切った瞬間、兄貴がソロモンの首を斬った。確かに斬り離された。  稲光で視界を奪われる。発生源はソロモンで間違いない。前が見えない。後頭部に強い衝撃が走る。さっきのエルフだろう。  ソロモンの声が近くに聞こえる。 「神々よ、かがり火をお返し致します。神血を焚き、原初を忘れた我々に、もう一度、立ち返り、歩むことをお許し下さい。」  それに被せて兄貴が、 「隠れろ! その光を浴びるな!」  瞬間、天井から、電灯とは全く別の光が射し込む。暖かな光が体を包み込む。どうしてこの光は、こんなにも胸を高鳴らせるのだろう。足が無くなった。消滅という感覚を教えてくれ。  その光が絶たれた。僕の回りに殻のような触って、それが兄貴の影だと知った。  何だったのだろう、あの光は。もっと知りたい。浴びれば分かるかな。何が分かるんだ? 光の正体? いや違う。僕という存在だ。  外から微かにエルフ達の声が聴こえる。 「速く出ましょう。」 「間に合ったのか。」 「この影の殻にまで浸透しているかは分かりません。ただ警戒した。上位種族が、です。それより速く出ましょう。僕らにだって多大な影響があるんです。」 「堕天使は何の悪魔なんだろうな。」 「堕天使は堕天使という悪魔でしょう?……速く出ますよ。」 「神話に語られる限りは、天使にエクスカリバーを扱うことが出来なかった。本体があるからな。  でもこいつは握っても、消滅しなかった。  それはたぶん、片翼だから。天使の羽は善意からなる。堕天使、それも羽だけにになって、一つの悪意になって、エクスカリバーの使用権が得られた。  本来獲得し得なかった、十二翼目。十種の善意を宿していて、なんだったかも分かっている。残り二枚は不明のまま。  原初に立ち返る今なら、何の悪魔か分かるんじゃないか。」 「いい加減にしてください! この状況を作るのに、いくつの聖遺物と神器と、聖人の子どもと、どれだけ貴重か分かっていますか、いくつ消費したと思ってるんですか。  転生術式まで使用して。万が一に用意していたのを全て使って堕天使の動きを止められているんです。  次がないから研究したいのは分かりますが、諦めて下さい。あの人間と獣人と兄弟だったから、ためらっていた。命があることに感謝しましょう。」 「お前良く喋るな。」 「神々のかがり火に影響を受けているんです。僕らの術がある程度までなら耐えられるのが分かった。今後の研究指針も得られたんです。速く出ますよ。」 「光と影の解析、か。良いものが得られた。」  足音が遠ざかる。待って、もっと教えて、もっと知りたい。  原初に立ち返る? 兄貴が何の悪魔か分かるとか言っていたな。ということは、本質を思い出すということか。  上位種族が、下位種族を作った意味を思い出させるのだろう。  悪魔の場合は、自分を形成する感情に支配されるという事だな。なら、僕は好奇心に支配されている。    良し自覚できた、なら支配が弱まったはずだ。解消できた訳じゃない。  試してみるか? いやいや、その発想が支配を脱した訳ではないという証拠だ。自我を保て、揺らぐな、意識しろ。俺は、まだ知性がある。  俺? 僕だろ。そうだ、僕という一人称にしているのは、兄貴や師匠に敬意からだ。人間の本にそうあったじゃないか。  持っていたのは獣人種だったな、あの獣人は何者だったのだろうか。気になるな。  違う違う、今考えるべきことじゃない。心配だ、兄貴達は無事だろうか?  影の殻が消える。僕は突然射し込む光に目が眩む。普通の電灯だった。  あのかがり火は燃え尽きたらしい。    それでようやく、気づいた。  僕の腕と足が無くなっていた。あの光を浴びたせいか? 一瞬だっただろ。エルフが、間に合ったか、と問うほど、認識できないほどだ。それなのに、悪魔はこんなにもダメージを追うのか。    
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