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悪魔の取引
腕と足がない。気が動転して、痛みがないんじゃない。全く感覚がない。始めから腕と足が備わっていない悪魔だったような気がするほどだった。
あの光を浴びたせいか。一瞬だったぞ。エルフが、間に合ったかと問うほど、認識できていないほどだった。それだけの時間で悪魔を滅することができるのか。
僕は兄貴のお陰で生きている。堕天使の最速で守ってもらっても、腕と足を失っている。
そうだ、兄貴は? 見渡した時、声がした。
「あなた方が出して下さったのですね。」
獣人でも、アルでもない。
人間の子供だった。アンドロイドの中にいた人間だった。純粋な善意に満ちていた。
「ありがとうございます。」
人間の手足はついていた。そうか、兄貴が肘や膝から下を斬ったのは、中の人間を傷つけないため。
外に感情を出さなかった。それがアンドロイドのスーツとしての役割だったのだろう。
そうすれば悪魔は産みだなさない。
いや、待て人間がエクスカリバーを使っていた? 反応していた。純粋な感情を持った人間?
兄貴がふらふらと歩きながら僕の視界に入った。
兄貴はエクスカリバーを手にしていた。ただ、さっきの戦闘に見た輝きはなかった。泣いているようだった。
人間に近づいていく。
人間は、
「お兄ちゃんがこの牢獄を撃ち破って下さったのですね。」
兄貴は善意を食べる気か?
それは、
「駄目だ! 止まって!」
聞こえていないようだった。
そうか、あのかがり火の影響を受けているのか。上位種族が作った意味を思い出させる。天使である兄貴は善意を求めるんだ。
でもおかしいだろ。片翼から悪魔になったなら、僕と同じように、自分を形成する感情に支配されるはずだ。
善意を求める悪意? そんな感情があるのか。
人間は嬉しそうに言う。
「救世主様ありがとうございます。」
「悪魔にとってそれがどういうことか分かるでしょ!」
手足を失っているせいで間に合わない。止めなきゃ。それでも這って行こうとする。
人間と獣人種に助けを求めようとしたが、二人とも、膝を地につけ、うつむいていた。かがり火の影響から脱していないのか。
「せめて、エクスカリバーを手放して。」
善意に満ちた人間は、兄貴を見ていた。羨望の眼差しだった。
兄貴は、善意を食べた。
悪魔は悪意のみで形成されているから、純粋である。
なら善意を消化せず、取り込むとどうなるか。
純性を失う。
エクスカリバーを握っており、資格を失う。
消えていく。煙のようになっていく。
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