悪魔の取引

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 茫然としていた。 「おい、大丈夫か?」  アルだった。 「お前の兄貴はどうした? こいつの話は本当か?」  獣人が聞く。僕は、 「ああ。」  二人は沈黙した。獣人が、 「お前これからどうする?」  僕は答えなかった。 「お前も俺たちと来るか?」    今夢を叶える価値はあるだろうか。世界を見て回って、価値はあるだろうか。  兄貴と一緒が良かった。僕が兄貴に悪魔の地位向上の論を発表していたのは、実証するために一緒に世界を回りたかったからなんだ。 「差別の悪魔を産みたいんだろ。俺たちなら手伝える。」  悪魔を産む? ああ、そうだ。  僕はアンドロイドの中に居た人間を見る。 「お前はどうなりたい?」  人間は考えをまとめているようで、言い淀んでから、 「僕はさっきのお兄ちゃんみたいになりたい。」 「兄貴のようになりたいのか。」    人の本能は、上位種族への信仰なのかもしれない。曲解があって、信仰だけが内から沸いて、ちょうど助けてもらった、兄貴を崇拝しているのではないか。  僕は、光明が射したようだった。 「なあ、お前ら、この子供の人間どうするつもりだった?」 「連れ帰る。その後は適切な場所で保護してもらうつもりだけど。」 「こいつ俺がもらっても良いか?」 「何をするつもりだ?」  僕は、 「こいつ、俺が育てる。」  人間が目を輝かせて、 「よろしくお願いします。」 「兄貴のようになりたいんだろ。」  人間はまるで神を見ているようだった。 「そのために、力が欲しいか?」 「もちろんです。」  神が授けるのは言葉。悪魔が授けるのは現物。 「与えてやる。堕天使の翼をお前に植え付けてやる。」  宝物庫にあったはずだ。あの時、確実にあった。師匠の話を聞く限り、まず羽を見つけ、その後は兄貴を見つけたのだ。  あれは、堕天使の羽だ。あの時は少し見て、となりのエクスカリバーがない事に気づいたせいで、曖昧だったが、今回の戦闘で兄貴が翼を発現し、確信した。  獣人種が、 「何を言って……」  それを、アルが制して、 「俺達が目指す、平和の形にそれがあったって良いだろ。」  アルが僕と人間をどこか期待を込めた目を向けていた。 「悪魔が人間を育てる。そのくらい平和を目指す。平等な世界を目指す。戦争を回避出来れば良いが、たぶん無理だ。  だから、その後あなたたちが自由を手に出来る世を作る。  だから、あなたも差別の悪魔を諦めないで。」  僕は、 「分かった。ありがとう。」
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