悪魔の取引

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 バフォメットは、鵜の目が獣人を懐柔している間に、疑問になったことを調べにいくと言って離れた。  自分の部屋に隠した記録を読む。と言っても日記のようなものだった。誰もこの戸棚には触れた形跡はない。昔、獣人種がこの前に立っていた時はビックリした。  わざと姿を見せて、脅すつもりだが、追って来たので、そのまま俺も逃げて、この戸棚から離れてもらった。  エクスカリバーを隠した場所まで逃げて、あの剣を見れば無視は出来ないだろう。  その間に部屋に帰ってこの記録を移すつもりだった。  だが、ちょうど、弟子二人も追って来て、獣人を捕らえた。  エクスカリバーは、始め、太い木の根っこに刺しただけだった。あの辺は、前の戦争で人間の鎧や武器が残っているため、悪魔には見分けられないが、人なら分かるようになっていた。  ただの人では扱えないから、出来れば持っていって欲しかった。弟子達に見つからない遠くへ。悪魔は他国に行けない。  しかし、弟子達は良くそこに遊びに行っているらしい。そこで、土に向けて投げて、土の中に隠した。  これは魔王様にも報告していない事だった。気づいているだろうけど、黙認してもらっている。  ルシフェルの羽を斬り落とした時の話、鵜の目には嘘言った。    あの日堕天使の羽を見つけ、そいつは言う。 「俺を悪魔にしてくれ。」  どうしてそんな事を言い出すのだろう。警戒したまま、何故か耳を傾けていた。 「俺は間違っていなかった。俺はただ平等を叶えようとしていただけなんだ。忠実に生きていた。生きていたんだ。俺らは人形じゃない。  平等を叶えるためには天使と神の差を無くそうとしたんだ。」  ルシフェルはただ、訴えただけなのだろう。生きている、そう神前で発言した。  それが間違っていた。天使という存在に対して、その考えを浮かべた時点で、失敗作なのだろう。 「間違っていないだろ。」 「お前は、神よりも自分の方が公平な世界を作れると思ったんじゃないか。」  ああ、そうか。俺が玉藻を追っていたのは、俺の方が進化に適している、と思ったからだったんだ。  玉藻が盗み出した、神の遺体を喰らえば進化出来る。俺は進化に純粋だった。手段を選ばず、純粋に執着していた。  喰って相手のものを得るというのは、伝統的な風習だった。  得たものは、人の身では知ってはいけないものだった。  ルシフェルは笑って、 「なおさら、俺は悪魔だな。神よりも自分の方が正しいと思った。愚かしいな。  悪魔として認めてくれ。」  もう一度言う、その声には、悔しさだとか、辛さだとかはなく。  希望を見ているようだった。 「差別をしないだろ。  神が天使を人形のように扱う事もない。  獣人種が人魚を下等と言うように、エルフが人間を奴隷にするように、人間が機械を物として扱うように。  悪魔は差別することはないんだろ。」  悲痛な声だった。希望が見えて、辛いことを吐き出したようだった。 「お前は何の悪魔なんだ?」 「残った羽は平等という善意を集めて、振り撒く。  平等はやり過ぎれば、差別になるんだ。  俺は差別の悪魔。」 「お前は本当に悪魔なのか?」 「そうだ。」 「確かに、悪意から悪魔が作られる、なら羽だけになった堕天使から悪魔が産まれるのも必然的か。」 「俺は本体だ。善意を集めるためのアンテナみたいな存在だよ。羽はもう一つしかないけど。」 「あり得ない。間違いなく斬り落としたはずだ。」 「ああ、隠したんだ。本来持つべきではない十二枚目だから隠していた。結局これがなきゃ、俺はもう死でいる。」 「それに、吹き飛ばされている時、お前がいたところから、他の天使が目指した場所に向かっただろ。」  「さっき言っただろ。悪意だけで悪魔は成り立つ。なら逆もある。  善意だけで、天使を作られる可能性があるだろ。」  羽だけで天使が作られ、神を追ったのか。    記録を閉じた。  エクスカリバーは、神器、光を扱う剣。あれは原初の光を見せる。本能的に求めるものを引き出す。理性で制御していた感情を思い出させる。  たぶん、エクスカリバーを手にすると、天使本体の本能的に、善意を集める事になる。  その時、悪魔としての純性を失いエクスカリバーに殺されるだろう。  だから、エクスカリバーを持たせたくなかった。  だから、エクスカリバーを隠した。  
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