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バフォメットは弟子達が見回りに出掛けた後、魔王城で来賓を待ったいた。
他の六大悪魔達は他の拠点にいるため、ここには魔王様とバフォメットの二体しかいなかった。
他の悪魔は入らないようにと客側の要望だった。
ようやく客が入って来た。
護衛はなく、こちらも一人で来た、信頼している、そういう意思表示なのだろう。
「これはこれはご機嫌麗しゅう。」
こいつは本当に胡散臭い。しかし、こいつらの協力がなければ、防衛の一つである森の霧の維持は出来ない。あの霧には幻覚作用があり、この魔王城までたどり着くのは容易ではない。
「何の用だ。人の子よ。」
「書簡でお伝えした通りですよ。魔王様。」
「この天空城の研究結果なら、わざわざリクスを抱えてここに来る必要はないだろう。」
エルフが悪魔と取引している、証拠が上がれば獣人、人魚、人間から、国交断絶は免れないだろう。出来うる限り出入りはしたくないはずだ。
「我々は取引をしに来たのです。まあ、それは後で。まずは報告いたしましょう。」
滑らかに、楽しそうに話し出した。二体は黙って報告を聞くことにした。
「あなた方が撃墜した天空城。天使の住まう天空城。奪取したその時、切り落とした堕天使ルシファーの羽の一部、提供ありがとうございます。非常に素晴らしい研究結果が得られました。
天使は純粋な感情によって成り立っていたのです。分かりますか。この世紀の大発見を。悪魔は負の感情で成り立ち、天使は正の感情で成り立つのです。
つまり天使と悪魔は表裏一体なのです。
まあ、当然悪魔と天使には違いがあります。天使はその力の形を羽にして、威光を示す。悪魔にはない方法ですね。羽は白く、悪意にまみれれば、羽は黒染まる。」
「善意は行き過ぎれば、悪意になる。ならば逆はどうですか?
悪意も行き過ぎれば、善意になる。分かりますか?
曲解、極論を言えば、神は悪魔を使っていたと言えるのです。」
魔王様はため息をついた。バフォメットも
また、エルフのこの一族の大願は愚かしいと思っている。
「貴様らの大願は叶わぬ。」
エルフは夢に酔っていた。
「エルフには悪魔を従わせる魔術がある。つまり我々は神である。」
「神代再犯、なんて実らないぞ。」
エルフは悪魔を使うことができる。
悪魔は天使と表裏一体、紙一重の存在。
天使は神の使い。
つまり、エルフは神である。
こじつけ論、愚者の発想、妄言、夢と現実の区別がつけられない。賢者と呼ばれていたのに、悪魔のような種族と成り下がった。
「我々だってもちろん、当代で完成するような大願だとは思ってはいませんよ。」
「そうかい。」
「話がそれましたね。あなた方から提供された、堕天使の羽の解析は今申し上げた通りですが、如何せん応用が効かないのです。」
「何故だ?」
解析できたなら、もちろん、利用したい放題のような気もするが。人の研究というのはよく分からない、とバフォメットはいつも思う。
「全容が分からないということです。まだ解析できていない世界の法則が存在する、と我々は結論付けました。」
「それで、何を求める。」
「魔王様の協力を……。」
魔王様から放たれた、殺気にも似た威風。不敬であるといっていた。
「あなたの正体は我々にとっても好奇心をそそるものです。それだけはご理解いただきたい。サタンなのか、ハデスなのか、オシリスなのか。
我々はあなたの存在に、尊敬と共に好奇心をそそられることもあるのです。」
それはバフォメットすら知らないことだった。現存する唯一の神であるかもしれない。神を調べることができれば、世界の法則とやらは簡単に解明できるだろう。
「本物の天使、本体が手に入れば良いのですがもう存在しないですから。」
同情を引けそうなほどの残念な声だった
「我々が望むのは、エクスカリバー。あの剣は神代より扱われる神器、そして原初の光を放つ武器。あれの性質は誰もが知っての通りです。」
「やめておけ。」
「エクスカリバーは純粋な生物にしか扱えない神器。一つ感情より産まれる悪魔は純粋な生物。」
「悪魔にしか、エクスカリバーの使用権はない。他の奴が持てば、あの剣に殺される。
そんな事知っているだろ。そんな物を研究したところで貴様らに利はないだろう。」
「ええ、そのリスクも承知の通り。しかし、その威力もまた神話に語られる通り。人の身で、上位種である天使を撃墜させることが実証されている武器でもあるのです。」
悪魔はエクスカリバーなどの神器を使い、この天空城を地に墜としたのだ。
「もしそんな武器が作れたらと思ったことはありませんか?」
「研究させてもらえれば、もう一本作って見せようと言うわけか。」
「一本と言わず量産しましょう。」
「貴様らは取引をしに来たのだろう。将来量産してみせるから、我々に投資しろ、と? ふざけているのか?」
「我々もそんな生意気は言いません。我々がこの交渉の台に乗せるのは、情報です。」
悪魔側にとっても、エクスカリバーを交渉台に載せるのは気が引ける。
今宝物庫にないのだから。
「人間が戦争を仕掛けようとしています。」
「人間であろうとそこまで愚かではないだろう。」
戦争というのは幾多もの感情が渦巻く。憎悪、悲哀、恐怖、そう言った感情は悪魔を産む。
悪魔がほぼ無限に増殖するのだ。
五十年前の戦争も、悪魔の数を減らせず、魔王城に届かず、人間は撤退した。
「人間はついにその対策をたてたのです。」
「どのようにして?」
「それは言えませんよ。」
感情豊かな人間はどうやっても悪魔には勝てないはずだ。
五十年前も催眠術が自分にかけられるという、薬物と呼ばれる物を使って対策してきたが、結局悪魔は産まれた。
「どうされますか? 我々は人間の戦争、対悪魔の戦争方法と、エクスカリバーの量産その利権もお渡ししましょう。あなたがたはエクスカリバーを貸与。」
悪くない内容だ。エクスカリバーの貸し出し期間を短くしたり、エクスカリバーの護衛班と言って何体か悪魔を派遣しエルフ側の偵察もできるかもしれない。
もちろん、手元に無いものを差し出すことは出来ない。
「それは出来ないのだ。」
「あなた方には知性があるはずだ。そして、文明の進化の恐ろしさを知っているはずだ。」
「ああ、知っているさ。それでも出来ぬ。」
「何故?」
「悪い、エクスカリバー盗まれちまった。」
「は?」
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