0人が本棚に入れています
本棚に追加
あれは月が墜ちた日のことだ。
俺はエクスカリバーを手に、玉藻を追っていた。何としてでも息の根を止めなくてはならかったんだ。
まあ、その話は関係ないから、俺にも目的があったとだけ認識していてくれ。
どうしても、一人では殺せないから、悪魔を頼ったんだ。
悪魔は争乱の世を引っ掻き回していた、それを取り締まるために動いていた天使と戦っていた。
ああ、上位種族である天使と戦争して勝てるのか、聞きたいんだな?
お前もさっき言ってただろ。真性の悪魔達が主戦力だったからどうにかなっていたんだ。
真性の悪魔には会ったことないだろ? そうだな。その説明もしておこうか。
悪魔は感情から産まれる。妬み、憎しみ、悲しみ、好奇心、その他色々な。
なら、神様にもその感情があった。上位種族は自分たちを元に人を作ったのだから。
つまり、上位種族達が互いを恐れ、妬み、憎しみ、悲しみ、好奇心、などの感情から産まれたのが真性の悪魔。
俺は、真性の悪魔の傘下に入ったんだ。俺はエクスカリバーに選ばれたからね。
エクスカリバーの性質は純粋。悪魔は最も純粋な生物。
資格があったんだ。傘下に入った以上、天使との戦争を手伝っていた。
ある時、好機を見いだし悪魔全体で攻勢に出た。天空城を落としにかかった。俺も前線で進行し天使と戦っていた、その時だ。
ルシフェルと会敵した。想定しうる最悪の敵だったよ。俺は一人。相手は天使の中でも最上級。エクスカリバーがあろうと勝てない。
あの日ほど絶望したことはないね。
ただ、奴は自滅していた。抱えようもない自己矛盾に陥っていた。正確には違うのかもしれないがな。
ルシフェルの十二枚の善意、それだけの数があり、それも強力な善意があったなら、当然矛盾が生まれる。
悪魔であれば、一つで高位の悪魔と同等かもしれない。人であれば、一つでその人の人生のすべてが決まるような意志の力なんだからさ。
天使の悲運は本体が存在することだよ。
善意ってのはどうしても集まり難いからね。本体、いわゆるアンテナが必要だったんだ。善意を集めるアンテナ。
それがイカれていた。
ルシフェルはまず逃げた。苦しそうな表情だったよ。堕天しかかっていたからね。最強の天使がこちらを襲ってこなかったなら、その気まぐれに感謝すべきかもしれない。
俺は追ったんだ。
勝てると踏んだ。今しか倒せないとな。
森の中を、飛びもせず走っていた。そのせいもあったのかもしれない。勝てると思ったのは。儚く脆弱な存在。弱った蝶が地に落ちた枯れ葉に止まって、カマキリに見つかって、低く低く飛んで、必死に逃げようとするような、感じだったよ。
白羽の何枚かは難なく斬り落とせた。半分になって、ようやく危機感を覚えたんだろうな。
反撃を始めたんだ。精度の甘い遠距離攻撃当たる訳もなく。一、二枚と斬り、続けて本体を狙った。
その時だよ。神が世界を去ったのは。巨人は消えた。龍は墜ちた。天使はどうにか神の後を追おうとした。
神がどうやって世界を去ったのか。付いていくにしたって、道があるわけではない。
でも、天使は知っているようだった。全員が同じ方向に向かう。青空の一点に集まっていく天使はまるで流星のようでキレイだったよ。
ルシフェルも行こうとした。攻撃の姿勢をとったまま。
ルシフェルの羽は残り四枚、真っ黒な堕天使の羽が二枚、真っ白な天使が二枚。倒しきろうと、必死だった。
見渡し、最も高い木に登り、それを踏み台に、飛んだ。上昇中に右側の羽二枚を落とした。
ジャンプでルシフェルより高く、最高到達点で振り替えって、残りを狙う。その一瞬、ルシフェルの顔が見えた。
悲しそうだったよ。俺のことは見えていない。他の天使を見ているようだった。
最後の力で、ルシフェルは他の天使を攻撃した。目の前にいる俺でなくね。
俺は下降中に残った羽を斬り落として、油断した。他の天使から攻撃受けた。
地面と平行に吹き飛ばされたよ。いくつかの山で区切られた森が眼下で流れていった。威力が減衰し、着地できたところで、ルシフェルの元へ急いだ。
正直そこまで執着する価値がなかったんだ。居なくなるなら、ほっとけば良かった。そんな余裕のある戦場じゃない。確実に天使を無力化したんだ。死体を見に行くくらいなら、戦況を誰かに聞き行くべきだった。
それでも、頭の隅であの悲しそうな表情が浮かんだんだ。
まず真っ黒な羽を見つけた。枯れ葉のよう地面落ちていた。
真っ白な羽は、本体から切り離すと霧散した。それを繋ぎ止めておくための、本体、アンテナなんだろう。
けど堕天使の羽は残っていた。その先に、もう一枚いた。
本体があった。確かに斬り落としたはずなのに。慎重に近づいた。
そいつは言うんだ。自分の存在の説明をするんだ。
納得したよ。そいつが言うには、自分は悪魔だなんだそうだ。
確かにそうだろ? 天使は善意を羽の形にしている。善意も行き過ぎれば、悪意になる。
堕天使の羽は悪意の象徴。
悪意からは悪魔が生まれる。
最上級のルシフェルの堕天使の羽から産まれた悪魔。
お前が兄貴と呼ぶ、こいつが件悪魔なんだよ。
最初のコメントを投稿しよう!