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悪魔の戦闘
この国に二つしかない牢獄に来ていた。どうやら人の牢獄は面会室と呼ばれるものがあるらしいが、悪魔にはない。
元は天使の住まう城だ。天使に捕らえるという発想があっただけでも、驚きだ。天罰だ、裁きだ、天命だ等と言って殺すことしか脳がないのかと思っていた。
目的の人物は目を閉じていたが、足音が自分の前で止まったせいか、ゆっくりと鋭い双眸をこちらに向けた。
僕は一人。
獣人種特有の殺気がある。手錠に足枷に、胴体を鎖で繋いでいる。それでも、心臓に刃を突きつけられるような感覚が襲う。敵意は隠さない。
都合が良い。
「ねえ、君はここから出たいと思う?」
慎重に喋る。
「悪魔の言葉は人間でも聞き取りづらいらしいんだけど、聞こえてる?」
「出たいと言って、貴様らは何を望む?」
大丈夫なようだ。
話を聞く気はあるようだ。少し安心した。もし何の興味も示さず、岩のように黙り続けたら、打つ手がなかった。
さて気合いを入れ直して、
「名前は聞かないよ。君たち人は真名を知られると縛られるって信じているようだからね。残念ながら僕はそんなことできないんだ。」
自分は弱い存在だと示す。
「それはごく一部に与えられた特権なんだよ。悪魔の真名を知れば使い魔にできる。それを反転させた高位の悪魔にしか扱えないものだからね。」
君と同等の存在だと。親近感を植え付けられればなお良し。
「さて、僕はある命令が下って、とても困っているんだ。それはさ、一度怪盗に盗られちゃって、探しているんだけと。協力してくれない?」
彼は沈黙したままだった。
「怪盗のことなら、怪盗に聞くのがやっぱり手っ取り早いかなと思ってさ。どうかな。君がもし盗んだ後どこに隠すのか。」
「売ったんじゃないか。」
「悪魔から物を買う人がいるとでも。」
前にいる獣人は小さく笑った。
「そもそも、犯人は分かっているのか?」
「僕は君が犯人だと思っているけど。」
「何度も言っただろ。違う。」
「えー。そんなこと言って他の怪しい人いないよ?」
「なんで悪魔から。だいだい宝物を盗みだす目的は?」
「売る。」
「確かにな。悪魔よりは買い手がいるだろうな。ていうか、城内探してないで、外を探すべきじゃないのか?」
盗まれたなら、当然悪魔の国にはないはずだ。ただ、あの日、
「僕らはあの日、師匠から宝物庫の番を任されていた。宝物庫の出入口は一つで兄貴と見張っていた。
誘惑に勝てず、中に入ったんだ。ただの好奇心。一度で良いから、神器を見たかったんだ。エクスカリバーに限らず、神代から残り続ける遺産を目にしておきたかったんだ。
武器だけじゃない、羽や腕いった生体の一部とかな。」
「でも、なかったと?」
「そう。あの日は僕ら以外通っていないはず。鍵だって僕らが持っていた。
なかったから、慌てて師匠の部屋に駆け込んで、君がいた。師匠の部屋に、何かをしていたの。
侵入者は君しかいないんだよ。知らない?」
「だから、知らねえって。俺は目的があったんだ。それは盗みとかじゃない。」
だいぶ話すようになってきた。捕らえた直後は、違う以外のことを一切、沈黙を貫き通した。目的があったっていう話しも今日、初めて聞いた。
「盗み以外ってどんな目的が。まさか悪魔になりたいとか?」
「そんなわけないだろ。単純に助けを求めて来たんだ。」
長いため息が細く獣人から漏れた。もしや、探っているのがバレたのだろうか。
焦った僕は、
「助けって何。」
普通に聞いてしまった。もう少し冗談めかして言うべきだった。
「助けの意味も知らないのか。お前が、エクスカリバーの行方を俺に聞きくることだ。」
僕を値踏みするような目で見つめた。その目に覚えがある。やっぱりだ。
「お前、内部犯を疑わないのか。」
「内部犯……? そうか! 僕らはあの日以外宝物庫の番を任されたことがない。わざと僕らを任命したのか。」
宝物庫の番、正確には管理をしているのは、師匠だ。師匠なら出入り自由だ。
「あの時、師匠を呼びに行って、部屋にちょうど君がいて、僕らに発見するより先に何かに気づいて、走り去った。
あの時何か見つけた?」
いや、聞くまでもない。ほぼ確実に、
「バフォメットを見たの?」
黙って頷いた。
「となると、君はバフォメットに助けを求めた。なんで?」
でも、そうか。バフォメットは元獣人種。結社や組織などで人を集めたいなら、象徴となる人物がいれば簡単だ。
バフォメットは、エクスカリバーに選ばれて最強の堕天使を屠っている伝説ある。充分過ぎるくらいだ。
ただ、
「バフォメットほどの力を求める理由何?」
「お前エクスカリバー良いのかよ。」
「良くはないけど、気になる。」
「じゃあ、こうしよう。俺は目的、あの日のバフォメットがどこに行ったかを教える。その代わり、お前は俺を外に出してくれ。」
「分かった。」
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