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やっと今カノを追い払えたのに何なのよ。そんな小便臭い孺子と話し込んじゃってさ。まさか女に飽きて男に興味が移っちゃったってわけ。取り合いなら負けない。また蹴落としてやるわ、絶対に。あんたは私だけの物なんだから。
女が憤然としながら愛した青年の許に近づこうとした瞬間、目の前に孺子が忽然と現れた。
胸に校章が印刷されたポロシャツを着て、鞄を片方の肩に掛けているところから、おそらく高校生なのだろう。端正な顔立ちには、これといった特徴はない。ただ、それだけに人の懐に、ふと入り込んできてしまうのではないかという怖さを感じさせる。
「兄ちゃんの彼女さんですか。今日はデートやったんですね」
「えぇ」女は面食らいながらも、首をかしげた。「でも、おかしいわね。あの人に弟はいないわよ。あなた、いったい誰」
「僕は従弟ですよ。授業が早めに終わったんで、ちょっと話してたんです。ほら、鴨川沿いはカップルばっかしで腰を下ろすところもあらへんでしょ。せやから八坂神社の方へ行ったらええんちゃうかって。なぁ、そうやったやろ」
孺子と同じように突然、自分の真横に現れて無言でうなずく青年に女は驚きの声をあげた。
「どないしたんですか」
「いえ、何でもないわ。お気遣い感謝するわ」
「こっちこそデートの邪魔してしもて、ごめんなさい。あっ、そや。八坂神社の向こうに六道の辻っちゅうのがあるから、絶対に行ってくださいね。そこやったら人もあんまし居らんし、デートにバッチリやから」
鴨川べりから四条大橋へ移動した女と青年の姿は東へ向かう人混みの中に消えていった。
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