鴨の河原

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「これで大丈夫やで。あの女は二度と目の前に現れへん」 「二度と現れない……」青年は首を横に振った。「裁判所に接近禁止命令まで出してもらったけど、駄目だったのにかい。もう諦めてるよ。これからもずっと付きまとわれるのさ。彼女を車でわざと()き殺した憎いあの女に。でも、なぜだ。見ず知らずの女が、どうして俺を……。俺が何をしたっていうんだ」 「付きまとう奴(ストーカー)の気持ちはわかれへんけど、あの女が現れへんのは保証しますよ。だって見えてたでしょ、あの女と連れ添って歩いていく(もん)が」 「あの人間の形をしたマシュマロみたいな奴かい」 「そう。あれは雑式神(ぞうしき)ていう、僕が困ったときだけ助けてくれる妖怪の一種。あの女には、あんたのように見えてたはずや。そいつが六道の辻(ろくどうのつじ)にある地獄の入り口に女を送り届ける。あとは獄卒どもが女を責め(さいな)むために、その体を永遠に取り合いよる。包丁で千切ったり、大岩で潰したり、まさに無間地獄や」 「俺は今まで超常現象の類を信じることはなかったけど……」 「自分が見たもんが真実やで」 「そうか……。そうだな」青年は溜息をついた。「でも、ストーカー女が地獄で苦しみ続けたって、彼女が戻ってくるわけじゃない。もう一度、()いたい。()って話がしたい。それだけだ」 「そこまで言うんやったら、話したらええやん。彼女さんは隣に()るんやから」
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