27人が本棚に入れています
本棚に追加
「これで大丈夫やで。あの女は二度と目の前に現れへん」
「二度と現れない……」青年は首を横に振った。「裁判所に接近禁止命令まで出してもらったけど、駄目だったのにかい。もう諦めてるよ。これからもずっと付きまとわれるのさ。彼女を車でわざと轢き殺した憎いあの女に。でも、なぜだ。見ず知らずの女が、どうして俺を……。俺が何をしたっていうんだ」
「付きまとう奴の気持ちはわかれへんけど、あの女が現れへんのは保証しますよ。だって見えてたでしょ、あの女と連れ添って歩いていく物が」
「あの人間の形をしたマシュマロみたいな奴かい」
「そう。あれは雑式神ていう、僕が困ったときだけ助けてくれる妖怪の一種。あの女には、あんたのように見えてたはずや。そいつが六道の辻にある地獄の入り口に女を送り届ける。あとは獄卒どもが女を責め苛むために、その体を永遠に取り合いよる。包丁で千切ったり、大岩で潰したり、まさに無間地獄や」
「俺は今まで超常現象の類を信じることはなかったけど……」
「自分が見たもんが真実やで」
「そうか……。そうだな」青年は溜息をついた。「でも、ストーカー女が地獄で苦しみ続けたって、彼女が戻ってくるわけじゃない。もう一度、逢いたい。逢って話がしたい。それだけだ」
「そこまで言うんやったら、話したらええやん。彼女さんは隣に居るんやから」
最初のコメントを投稿しよう!