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雨宿り
穂奈美は窓に目を向けてため息をついた。少しばかり雨宿りをするために行きつけの喫茶店へ入ったつもりが、かれこれ一時間も居座っている。
店内は閑散としていて、穂奈美以外の客はいない。そして、店員も青年の一人だけ。
「誰かと待ち合わせですか?」
カウンターの奥にいる青年が穂奈美に話しかけた。そりゃあ一杯のコーヒーで一時間も粘っているのだから、待ち合わせと思われてもおかしくない。
「いいえ。ただの雨宿りですよ。ごめんなさいね、長居しちゃって」
「そうでしたか、別に謝る必要はありませんよ。見ての通り、他のお客さんはいませんし、ゆっくりしてください」
「ありがとね。貧乏学生だから、おかわりを頼むような贅沢できないの」
そう言って穂奈美はコーヒーに唇を付ける。青年はその様子を横目に窓へ顔を向ける。
「大学生ですか?」
「そうです。すぐそこのM大学です。あなたは?」
「僕はK高校です」
「そうなんだ。ねぇ、少し話し相手になってよ」
「えっ……」
青年は顔を赤くして動揺した。
「あっ、仕事中ですよね。ごめんなさいね」
「いや、もうやる事も残っていませんし、問題ないですよ」
「そう、じゃあお願いしようかな」
穂奈美は青年に学校での話や好きな人の話を聞いた。彼女はショートの金髪をかき分ける動作が癖のようで、質問する度にやった。
青年の目は穂奈美の顔から離れて店の中を泳ぐ。そのせいで、まともに目が合わない。目が合ったとしても、青年はすぐに逸らした。
しばらくして、雨は次第に弱まってきた。
「これがやまない雨だったら良かったのに」
穂奈美がぼそっと呟く。それに青年は驚き、表情が固まった。
「もう大丈夫だと思うから、そろそろ帰るね。今日はありがとう。じゃあまたね」
「は、はい。また――」
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