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 降り注ぐ雨の冷たさが肌を刺す。どんよりとした空気と果てしなく広がる黒い雲に思わずため息が出る。  優しさなんて何の役にも立たない。嘘だって自己防衛のための道具でしかない。  二本目の傘を持ってると嘘をついて礼衣と和樹に一本の傘を貸した。それは礼衣の恋の手助けであり、私の恋に泥をかけているようなものだ。また後悔が胸を締め付ける。  例えこの雨がやんだとしても、私の心の雨はやまずに洪水で溺れるのだ。むしろ病んでしまう。  目にかかる髪の毛の煩わしさすらどうでもよくなってくる。街頭が死にかけの光を零し、道路の端にある排水溝のズレた蓋に足を引っ掛けて転びそうになる。何やってんだろ。俯いて歩いていたはずなのに。  たまにすれ違う通行人に哀れな目を向けられる。別に和樹以外にどう思われたっていい。しかし、無頓着少女でいたいと思っていても、私には無理そうだ。  制服が水を含んで重たい。靴下もぐしょぐしょ。鞄の中は想像もしたくない。でも、教科書とかノート乾かさなきゃ。家、母さん居るかな。居たら怒られるだろうなぁ。めんどくさいなぁ。これで風邪ひいたら明日学校休める。それもいいけど、和樹と会えなくなるのはもっといやだなぁ。だから、風邪ひいたら和樹がお見舞いに来てくれないかなぁ。傘を借りた罪悪感でお見舞いに来て、私の偽善を優しさと勘違いして好きになってほしいなぁ。  車が勢いよく水溜まりに突っ込んで通って行ったせいで、私に泥水が跳ねた。そうして現実に引き戻される。妄想と現実の乖離が甚だしくてため息が出た。芋づる式に涙まで出てきた。  ふと雨が止んだ――と思えば頭上に傘が。 「二本目はどうしたんだよ、これじゃあ風邪ひくだろ」 「え、和樹? なんでここに?」  慌てて雨に紛れている涙を拭った。これだけで救われた気がした。さっきの妄想なんて忘れてしまった。そして、言葉では言い表せない、恋をしている時の高揚感が心を支配した。今なら何でもできる気がする。 「学校に忘れ物したから取りに戻ろうと思ったんだよ。そしたらずぶ濡れの人がいたから。まぁ、家まで送って行くよ」 「ありがとう……」  この傘は二人では狭すぎるため、和樹の方が少しはみ出ていた。それから、彼は二本目の傘の話を言及することはなかった。そういう優しいところが好きなのだ。  いつの間にか雨はやんでいたが、気がついていないフリをして歩いた。
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