小鳥遊さんは恋してる

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 バタンッ!  俺は勢い良く用具入れの扉を閉め、扉を押さえつけるように、頭を抱えながらもたれ掛かって考える。 「っ……え〜〜〜っ……」  いや、訳がわからない。  今この中にいたのは、あの小鳥遊楓だった。紛れもなくあの小鳥遊楓だった。俺でも学校一の美女の顔を忘れるほど馬鹿ではない。  それで、え?今何してた?何か嗅いでたな。  いやいやあり得ない。いやいやいやいやいや。でも見間違うはずはない。あの美少女を間違える訳がない。一旦落ち着こう。よく状況を思い出すんだ。  小鳥遊楓がこの中にいた。それは認めたくはないが、今は認めよう。で、その小鳥遊楓が持っていたのはなんだ?俺の体操服だ。盗まれたと思ってた俺の体操服だ。シャツの方だった。俺の名前の刺繍が見えてしまったから俺の体操服で間違いない。阿部って書いてた。見えなければよかった。なんで見えちゃったかなぁぁぁぁ。  で、その俺の体操服にあの小鳥遊楓が顔を埋めていた。埋めていたよな!?しかも息を荒くして嗅いでた!匂いを!幸せそうに。ズボンは小脇に抱えてた。ま〜〜〜た見えちゃったな。  ってか、あの二秒間位でよく見れたな俺。むしろそこを褒めてやりたいくらいだ。じゃなくて。え?いや、え?今これどういう状況な訳? 「ナオ君?」 「っ、えぇぇ!?」  ロッカーの中から小鳥遊楓の声がした。  俺は突然話しかけられたことに驚き、ロッカーをみる。 「開けてくれない?外に出たいの」  いつも通りの清楚で可憐な小鳥遊楓の声だ。さっきのが幻覚だったのではないかと思えてきた。  冷静に考えれば、あの小鳥遊楓があんな変態的行為を行うはずがない。  うん、幻覚だ幻覚。だから大丈夫。  俺は言われた通りにロッカーの扉を開けると、今度は抱きつかれた。 「え?」  俺はまた驚いた。こんな美少女に抱きつかれるなんて夢みたいだ。  小鳥遊楓は抱きつきながら俺を見上げ、顔を紅潮させて言った。 「はぁ……リアルナオ君だぁ。スーハースーハー……可愛い可愛いカッコイイよぉ……こうして話すのも初めてだよねぇ。私は初めてじゃないけど。ずっとナオ君のこと考えてたら体が先に動いててぇ……体操服は借りてただけだからあと二回くらい嗅いだらすぐ返すねぇ……はぁん。私ね、ナオ君の匂い大好きなのぉ。匂いフェチっていうのかな。勿論ナオ君も好きなんだけどぉ。きゃっ、好きって言っちゃった。でもでも、やっぱり生ナオ君の匂いは堪りません」  小鳥遊楓は俺の胸に顔を埋めてつつ、そう話す。  匂い?生ナオ君?嗅ぐ?好き?  その様子に、俺は思考することをついに放棄し。 「うわ。マジかぁ」  引いた。  ドン引きだ。これは引くしかない。
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