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郁馬を松ぼっくりのようだと言ったのは幼い頃の律だ。郁馬はそれに唇を尖らせた。
「んとね、郁ちゃんはぱっとはじけて、あっという間にどんどん先へ行っちゃいそうなの」
「なんだそれ? だいたい俺があんな固くて渋そうに見える?」
幼い律が小さな手を振って、一生懸命説明しようとする様は可愛い。こんな時いつも助け舟を出すのが銀次だった。
「松ぼっくりの種だね。確かに郁馬は一緒に遊んでいても気が付いたら僕らを置いてどこかへ勝手に行ってたり、突然一人で決めて何かを始めてたり。
捉えどころがないってやつ? 松ぼっくりの種みたく、いつかどこかへ飛んでっちゃいそうだよ」
「俺、二人を本気で置いてったことなんかないけどな」
銀次は「どうだか」と苦笑した。郁馬の性格は『我が道を行く』という言葉そのものだ。近所では大人の言うことを聞かない悪ガキで通っている。
律が郁馬の傍に寄ると、彼の着物の裾を握りしめた。郁馬はバツが悪そうに頬をかく。
「じゃあ二人も松ぼっくりの種になればいい。三人一緒にどこまでも飛んでいこう」
名案だ、と郁馬が胸を逸らして言ったのだ。
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