松ぼっくりおいかけっこ

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 「女勇士の敵討ち!  うら若き娘が幼い弟と旅を続けて三年。  ついに浅草にて憎き仇を追いつめ、正々堂々名乗りを上げて、見事、見事に討ち取ったり。  詳細は瓦版の中だ。さあ買った買った‼」  瓦版売りの周りには町人たちが集まっている。今江戸で話題の敵討ち。若い娘が主役となれば、人々の熱狂もひとしおだ。  瓦版によれば、娘の名は律。父、安住藤一郎を乾郁馬という男に斬り殺され、十八の歳より遠い淡野藩から弟の藤吉と旅を続けてきたのだという。  記述の下には、若い娘が悪党面の大男に刃を突き立てる様が描かれていた。それを見て銀次はこっそり笑う――似ていない。  律と郁馬は共に城下を騒がせた、似合いの美男美女だった。  それにこの瓦版には肝心なことが抜けている。実はこの敵討ちの話にはもう一人、この千川銀次という男も登場するのだとか。  仇たる郁馬を、律と銀次で取り合っていたことだとか。
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