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「ねぇ、あんたにあの人の相手が務まると思ってるの?」
「それは……」
「あのね、あの人が何で『青薔薇の君』って呼ばれるか分かる?」
「えっと……青い瞳をしておられるからですか……?」
「はぁ……やっぱり浅はかね」
「え……?」
「青い薔薇の花言葉は『神の祝福』。つまりは、神の祝福を授かるにふさわしいお方ということよ。文武共に卓越した才、男性とは思えない類まれな美貌、そして宰相のご子息というご身分……これら全てを兼ね揃えたあの方は、まさに神の申し子だわ!」
「全て……」
「あんたみたいな何の教養もなく、貧相な田舎娘が、そんな貴いお方と並び立てると思う?」
「…………」
(怖い……)
青薔薇の君は、圧倒的軍事力と国力を誇るこの帝国において、国の中枢として君臨する宰相の息子だ。
神に祝福された才能、容姿、家柄に加え、それらに驕ることなく、全ての人に慈愛を以て分け隔てなく接するため、彼を愛さない者はいないと言われている。
そんな彼の誕生日に毎年開かれる舞踏会には、貴族の子女たちが煌びやかな衣装をふわりと躍らせる。少しでも、青薔薇の君の視線を物とするために。
表向きは誕生日を祝うパーティーでしかないが、もちろん、それだけのはずがない。
ここで青薔薇の君に見初められさえすれば、莫大な財産と名誉を約束される。だから、貴族の令嬢たちはこの年に一度の舞踏会のためだけに、日々己を磨いている。
故に、舞踏会の舞台裏は女の戦場だ。国中の令嬢が集い、鼻息を荒くして彼を奪い合っている。青薔薇の心を奪えるか否か……その結果次第で己の人生が大きく変わるのだから。
だからこそ、少しでも目を引く者はすぐに牙を向けられる。
(怖い。だけど……)
当然、田舎娘も分かっていた。
それでもなお、引くわけにはいかなかった。
「……私は、あのお方と並び立てるなどとは、考えたこともございません」
「ならさっさと失せなさいよ! ここにいるだけで田舎者の臭いが染みつくわ」
「嫌です」
「何ですって?」
「ただ、もう一度会いたいのです。会って、ちゃんとお礼が言いたいのです。弟を助けてくれた、お礼を」
「何を、訳の分からないことを……さっさと消え失せろって言ってるでしょう!?」
突き飛ばされた田舎娘は、慣れないドレスのせいか、まともに受け身を取れずに床に倒れ込んだ。
それでも田舎娘はあきらめない。
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