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「どうぞ遠慮せずにお食べください」  妹の言葉に、姉は首を縦には振らなかった。 「いいのよ。優しい妹、これはあなたが食べなさいな」  そう言って、まったく意見を聞こうとはしない。そして自分の意見を曲げようともしない。  完全に、平行線だった。  豪華な屋敷のテラス。  丸いテーブルを挟んで向かい合わせに座った姉妹は、ずっとこんなやり取りを繰り返していた。  テーブルの上に、いつものティーセットが並ぶ。  そして、日替わりのお菓子が用意されていた。今、姉妹が譲り合っているのは、そのお菓子――今日はケーキだった。 「イチゴのケーキは、姉さんの好物でしょ? 私はこちらのチーズケーキでいいわ」 「そう言って、この前もイチゴのケーキを譲ってくれたじゃない。だから今日は、あなたがイチゴの方を食べなさい」 「お気になさらず」 「いいから。今日はチーズケーキを食べたいの」  他愛ない姉妹の言い合い。  傍目にはそう見えたかもしれない。  しかし、妹にはどうしても、チーズケーキを取らないといけない理由が――いや、イチゴのケーキを食べてはいけない理由があった。  イチゴのケーキには、姉を殺すために毒を仕込んでいるのだから。  いつもなら姉は迷うことなくイチゴのケーキを手に取るはず。そう思って、毒を仕込んだのだ。  それなのに。 (なんで今日に限って……本当に、頭に来る女ねッ!)  絶対にチーズケーキを取らなければならない。  しかし、あまり焦ってしまっては、様子がおかしいと感づかれてしまう。  努めて冷静に、さりげなく、どうにかして姉の手元にイチゴのケーキを回さなければならない。  でないと――自分が毒入りケーキを食べる羽目になってしまう。
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