1人が本棚に入れています
本棚に追加
1/3
「どうぞ遠慮せずにお食べください」
妹の言葉に、姉は首を縦には振らなかった。
「いいのよ。優しい妹、これはあなたが食べなさいな」
そう言って、まったく意見を聞こうとはしない。そして自分の意見を曲げようともしない。
完全に、平行線だった。
豪華な屋敷のテラス。
丸いテーブルを挟んで向かい合わせに座った姉妹は、ずっとこんなやり取りを繰り返していた。
テーブルの上に、いつものティーセットが並ぶ。
そして、日替わりのお菓子が用意されていた。今、姉妹が譲り合っているのは、そのお菓子――今日はケーキだった。
「イチゴのケーキは、姉さんの好物でしょ? 私はこちらのチーズケーキでいいわ」
「そう言って、この前もイチゴのケーキを譲ってくれたじゃない。だから今日は、あなたがイチゴの方を食べなさい」
「お気になさらず」
「いいから。今日はチーズケーキを食べたいの」
他愛ない姉妹の言い合い。
傍目にはそう見えたかもしれない。
しかし、妹にはどうしても、チーズケーキを取らないといけない理由が――いや、イチゴのケーキを食べてはいけない理由があった。
イチゴのケーキには、姉を殺すために毒を仕込んでいるのだから。
いつもなら姉は迷うことなくイチゴのケーキを手に取るはず。そう思って、毒を仕込んだのだ。
それなのに。
(なんで今日に限って……本当に、頭に来る女ねッ!)
絶対にチーズケーキを取らなければならない。
しかし、あまり焦ってしまっては、様子がおかしいと感づかれてしまう。
努めて冷静に、さりげなく、どうにかして姉の手元にイチゴのケーキを回さなければならない。
でないと――自分が毒入りケーキを食べる羽目になってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!